和田健一郎・千葉県白井市議会議員(本人提供)

人権問題で後れを取る日本 地方議会が民意を受け止め国政に反映を

国会での対中非難決議採択の見送り、世界の動きに二周遅れた日本

先般の国会では、中国共産党の人権弾圧を非難する国会決議が審議されないまま採択が見送られ、そのまま閉会となりました。このことに衝撃を受け、今後の国際平和の行方に不安を覚えた方は決して少数ではなかったと思います。本来、議案に対して賛成・反対の意思とその理由を表明し議決する事が民主主義における国会のありかたであるはずです。

この非難決議は、事前に多くの政党が賛成を表明していたにも関わらず、採決に漕ぎ着けることができませんでした。各方面に悪影響を及ぼす重大な問題が、国会にはあると思わせざるを得ません。

首を縦に振らなかった方々は、中国共産党に「配慮」したのかもしれません。しかし、中華人民共和国政府による自由への締め付けや人権弾圧は、むしろエスカレートする一方です。6月24日、香港で政府(背後の中国共産党含む)の圧力に屈しないメディア、アップルデイリーが発行停止となり、民主派の区議会議員たちが辞職に追い込まれるなどの強硬策が続いています。

いっぽう、人権問題を重視する欧州議会では7月8日、状況が改善しなければ、2022年北京冬季五輪をボイコットするよう加盟国に勧告する決議案が可決されました。我が国はG7で唯一人権制裁法も成立させていません。世界の動きから2周も遅れてしまっている状況であることを自覚しなければなりません。

臭いものには蓋をしたままでは、参加国から疑念を抱かれかねません。今回の見送りは、日本の今後の国際社会における信頼構築という観点においても懸念されます。

地方議会が民意をくみ取り、国政に反映させる機運を!

このようななかで、日本では地方議会において、中華人民共和国の人権問題に対し非難と調査を要請する意見書が次々に採択されています。前述のような事態に危機感を持った多くの日本国民が、地元の地方議員に働きかけたからだと思います。千葉県白井市議会議員の私も、6月16日、国会で対中非難決議が見送られたことで、「国会に代わって我々の民意を反映させて欲しい」と多くの地元の方々からご意見をいただきました。そこで私は、「中華人民共和国による人権侵害問題に対する調査及び抗議を求める意見書」に関して、所属する会派(所属政党)を越えて賛同者を募り、議員発議しました。この議案は、白井市議会定例会最終日の6月29日、公明党、共産党、自民党など所属の議員含め全会一致で可決致しました。

もちろん、国会と地方議会では役割は違うものの、国会でできなかった民意を地方議会で反映させるという意義は大きいです。議決した地方議会に対して様々な圧力も報じられ、安全面での懸念事項もあります。しかし、抑圧に屈することなく、皆で力を合わせる事が重要です。

「外交事案は扱わない」という地方議会の慣習は突破できる

多くの地方議会には、「外交事案は扱わない」という慣習があります。地方自治法99条の規定によれば、決議は「地方公共団体の公益」に限られている、という考え方です。しかし、ほとんどの政党が賛同に動いていた対中非難決議は、見送られてしまいました。民意を反映させる場として、地方議会からも人権課題について声をあげるのには、大義があるのではないでしょうか。

白井市ひとつとっても、中国共産党の独裁政権の影響を被っています。2017年、地元に研究所を構える企業の社員が中国へ渡航した際、中国公安によりスパイ容疑で拘束される事件が起きました。私自身も、香港で親中共メディアといわれる文匯報などから、所属すらしていない政治団体の中心人物などと事実ではない報道をされ、香港への入境を拒否されたことがあります。

日本国民が中国に関連したビジネス等のあらゆる活動において不当に権利を侵害されるリスクは高まる一方です。中国による人権弾圧への対応は、市民の安全を守る上でも必要であり、決して、中国側の主張する「内政干渉」ではありません。

全会一致の意義

民主主義は様々な意見があり、対立する考え方があって当然です。意見が対立したとき、合意点は議論の過程で決まりますが、時には平行線のまま多数決で行われることもあります。もちろん、それぞれ議員が違うスタンスを持っているのは当然です。

しかしながら、今回の対中人権問題の意見書の審議にあたり、私は各議員の所属政党やイデオロギーを越えた、共通の問題意識として「全会一致」の可決を目指しました。意見書草案から全会派と何度も協議した上で、国会で対中非難決議について活動されていた日本ウイグル協会や香港の方たちに直接お会いし、意見を聞き、事実確認などした上で、6月16日から着手し意見書を何度も書き直し作り上げました。意見書は、同25日に議員発議として白井市議会に提出しました。

「民主主義は非効率」と言う否定的な意見も聞くことがありますが、そこに重要な点を見落としています。民主主義において、意見の違いを越えて説得する努力、その結果による全員の一致が大きな意味を成す事を忘れてはいけません。理解や説得を通じて合意点を探る努力を怠り、暴力的に異見を抑え込む方法を続けていれば、短期的には効率が良いと錯覚するかもしれません。しかし多くの負の感情が蓄積されていけば、いつかはそれがあふれ出る時がきます。言うに及ばず、暴政がいつかは破綻してしまうことは、歴史が証明しております。

最後に、日本での一連の動きを「辱華」「中華民族への侮辱行為」と話をすり替えて、中国国内及び華人ネットワーク等で吹聴する残念な動きがあるようです。しかし、我々日本は、決して中国の方々を憎んだり、悪意を持って陥れたりする目的で行動しているわけではないことをあらためてこの場で申し上げます。同じアジアの友人として、将来、皆にとって不幸な結果になりかねない人権弾圧を憂慮していることを、理解していただきたく思います。


執筆者:千葉県白井市議会議員 和田健一郎(わだ けんいちろう)

国会議員秘書などを経て現在、千葉県白井市議会議員(二期目)。中央大学法学部卒、中山大学留学(台湾)。第一級陸上無線技術士、第一級アマチュア無線技士、第二種電気工事士の資格を持ち、台湾華語の話者でもある。周庭氏など香港民主派と知り合いであった事などから、親中共メディアの文匯報などに事実と異なる報道で批判された後、2018年8月香港を入境拒否される経歴を持つ。

関連記事
40年以上経った今でも活躍するF-16戦闘機は世界最高の多用途戦闘機の1つとして評価される。将来的には、ステルス機との対戦が課題となるがF-35やF-22戦闘機にはないF-16ならでは能力を持っている。
航空機の戦闘力を評価する際、速度や武装能力だけでなく、出撃生成率(SGR: Sortie Generation Rate)が重要な指標となる。SGRは航空機の運用効率を示し、高いSGRを持つ機体は、より頻繁な出撃と優れたパイロット訓練を可能にするため、総合的な戦闘力を大きく向上させる。
ナバロ氏は2016年よりアメリカと中国の関係に深く影響を与えてきました。トランプ氏はナバロ氏を貿易顧問に任命し、保護主義を強化した。ナバロ氏の著書『デス・バイ・チャイナ』は、トランプ政権の貿易政策の指針とされている。
中国は武器輸出を通じて地政学的影響力を拡大しているが、米国は、ウクライナへの武器輸出阻止や先端技術のアクセス制限を通じ、中国の軍需産業に圧力をかけている。世界の武器市場における競争は一層激化している。圧倒的な首位を維持する米国と、追い上げを図る中国。その行方を探る。
最近の中国共産党内での権力闘争が激化し、劉源が中央に絶望的な上書を送った。習近平への信頼が揺らぐ中、経済危機や政治的不安が拡大し、台湾問題への取り組みも失敗に終わる可能性が指摘されている。劉源は改革を提案し、党と国家の未来に警鐘を鳴らしている。