旧ポーランド紙幣5000ズウォティに描かれたショパンの肖像。 (Shutterstock)

西洋音楽の巨人たち ショパン(上)

「ピアノの詩人」と呼ばれるショパンの楽曲は軽快でありながら、内省的で、喜びを表現していても過度ではなく、物悲しいですが憂鬱でもありません。

ショパンの曲は、他のロマン派音楽と比べると、少し深みと力強さがあり、心の琴線に触れるものがあります。ロマン派の代表として、ショパンの音楽は、人間世界の深く、惜しみない「愛」を表現しています。

モーツァルトやベートーヴェンの古典派が合理性を重視したのに対し、ロマン派は外界の制約から脱却して自分の内面の感情の表現を重んじ、「感情」の豊かさを芸術創造の焦点としました。それは、メロディアスでハーモニーが豊かで、色彩豊かなオーケストラ作品が数多く生み出されていることにも反映されています。ショパンは、その繊細な音楽表現で多くのロマン派音楽家の代表となり、ピアノ音楽の新時代を切り開きました。

 

民族文化を体現する美しい音楽

ショパンはほぼ生涯、ピアノのために作曲を続け、交響曲やオペラには一切触れず、最も純粋な形で、ピアノ音楽の旋律と文学性を表現しました。ショパンのピアノ曲は、悲哀、甘美さ、ロマンス、叙情性、ドラマ、ファンタジー、輝き、無垢、偉大さなど、人間世界のあらゆる深い感情を含んでいるように思えます。それは彼の豊かな感情、豊かな愛情、また彼の心に深く刻み込まれた郷愁と苦悩からくるものです。

ショパンは20歳で故郷のワルシャワを離れ、祖国に帰ることはできませんでしたが、20年以上もの間、ロシア帝国の残酷な支配下にある祖国を常に思い続けていました。死の間際、ショパンは心臓を取り出してポーランドに送るよう遺言を残しました。埋葬の際、棺の上には、彼が終生大切に持っていた故郷ポーランドの土が撒かれたといいます。こうしたポーランド人としての郷愁や苦悩、涙などの感情も音符に込めて作曲がなされました。

ショパンの音楽の美しさの根底には、気概とたくましさがあります。彼のピアノ曲はポーランド民謡を多用しており、特にマズルカポロネーズはポーランドの香りに満ちています。ショパンは芸術的な言葉を使ってポーランド民謡を再現し、新しい音楽像を作り上げました。また、こうした民俗音楽の要素を吸収することで、ショパンのピアノ曲はより文化的な意味を持つようになったのです。

(次へと続く)

(翻訳・井田千景)

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