『ジョシュア』の初演は、イギリス・ロンドンのコベントガーデン王立歌劇場であった。 (パブリックドメイン)

バロック音楽の巨人ヘンデル (下)

天啓神助

ヘンデルは、1741年8月22日から9月14日までのわずか24日間で楽譜にして354ページもある大作『メシア』を完成させた。それはあまりにも純粋で、壮大で、構造的で、流動的で、素晴らしい完成度だった。彼自身も、まるで眠っている間に思いついたかのように感じ、「神は私を助けてくれた」とつぶやいたという。

これまでのオペラは、一幕一幕を吟味してつなぎ合わせるのに一年くらいかかっていて、頭をひねってもアイデアが出てこなかったり、大病をしたりすると、さらに時間がかかることも珍しくなかった。しかしこの『メシア』は空から降ってきたメロディが響いていて、まさに名作と呼ぶにふさわしい作品になっており、これほどまでに創作意欲が旺盛になり、エネルギーに満ち溢れたのは、ヘンデルにとって生まれて初めてだったといえる。

その3週間余り、彼は外出もせず、寝食も忘れ、絶え間なく湧いてくるインスピレーションに浸っていた。羽ペンを握り、五線譜にすばやく音符を書き続ける中、彼は感動のあまり涙があふれ、原稿を涙で濡らしてしまうこともしばしばで、何時間も立ち上がることもせず、まるで根が生えたように座っていたという。彼は作曲に没頭するあまり、自分がどこにいるのかわからなくなるくらい、夢中になっていたのだ。

彼が『ハレルヤ・コーラス(Messiah Part II)』を書き終えた時、召使はヘンデルが跪き、両手を天に向けて涙を流しながら

「天の扉が開いたのを見た!天国全体を見て、そして偉大な神を!」

と叫んだのを見た。

 

天国の歌

「ハレルヤ、キング・オブ・キング、ロード・オブ・ロード、グローリアス、ハレルヤ……」

ロンドンで『メシア』が演奏され、『ハレルヤ』が劇場に響き渡り、英国王ジョージ2世は内心の興奮を抑えきれず、立ち上り、それを「天国の国歌」と呼んだ。

その時、満場の観客の心が震撼し、一緒に立ちあがったという。それ以来、全員が起立して「ハレルヤ」を斉唱するのがメシア音楽会の伝統となった。

ヘンデルの46のオペラのうち、現存するものはわずかであるが、2時間半に及ぶこの傑作は、バロック音楽の不朽の名作となり、全世界で最も多く歌われる神劇であり、ヘンデルに聖楽史、音楽史における不動の地位を与えた。

 

神劇を書いて慈善をする

どん底の時、まだ少し信仰心があったからこそ、ヘンデルは起死回生した。神は彼を救い、栄光を与え、彼を変えた。それ以来、ヘンデルは敬虔かつ謙虚になり、もはや金儲けを急がず、自分の音楽が人々を善良で高潔にすることを願い、芸術の道徳的責任を明確に理解するようになった。

彼はイタリア・オペラを書くのをやめ、英語の神劇だけを書き、心から神のために歌った。「エジプトのイスラエル人」「サムソン」「サウル」「ユダ・マカベク」「ジョシュア」「ソロモン」など、聖書の物語をもとにした32の神劇を書いた。(神劇は「オラトリオ」、「聖劇」とも呼ばれる。)その中には、アリア「神はわが力なり」などの名曲が多い。これらの雄大な神劇は彼に不朽の芸術の成就を得させて、「オラトリオの父」と尊ばれている。

こうして、聖楽を作曲したヘンデルはもう一人のバロックの巨人、ヨハン・ゼバスティアン・バッハと呼応し、バロック音楽の双璧を成した。

晩年、ヘンデルは盲目の中で創作を続け、病身をひきずってコンサートに参加し、彼は『メシア』の収入のほとんどを孤児の救済にあて、ロンドン最大の慈善団体の捨て子病院の院長にも任命された。彼は世を嘆き、人を嘆き、貧しい者や弱い者を助けた。

1759年の春、74歳の彼はいつものように『メシア』の演奏を指揮し、嵐のような拍手の中で倒れた。突然の死に国葬が行われ、亡骸はウェストミンスター寺院に安置された。墓碑銘は「私の贖い主が生きていることを知る」であった。

(翻訳・源正悟)

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