【芸術秘話】影に溶け込むダヴィッドの自画像
画家本人より自画像をうまく描ける人はいません。
ジャック=ルイ・ダヴィッドはフランス歴史の激動期に活躍した、新古典主義の画家であり、ナポレオンの首席画家でもありました。ダヴィッドは大規模な歴史画を得意とするだけでなく、肖像画もずば抜けていて、人物の特徴や品格を精確に把握し、それを絵画に表現することができます。
周知のように、芸術家たちは自分を表現したがります。ダヴィッドも例外ではありません。何枚も自画像を描きましたが、しかし、一般の画家と異なり、自分の顔を影に溶け込ませているのです。
なぜでしょうか?
良く観察してみると、ダヴィッドの自画像の光の当て方は、1794年のものを除いて、全て左からで、右側の顔は暗く、中には側面の姿しかない自画像もありました。このことから、ダヴィッドが意図的に顔の半分を隠しているのが分かります。
では、ダヴィッドは何を隠そうとしているのでしょうか?
史料によると、ダヴィッドがまだ若い頃、フェンシングの練習中に口の部分を傷つけてしまい、その後、化膿して傷口が悪化し、正面から見て右側の顔が変形してしまったのです。若い頃に殴られて鼻柱を折ってしまったミケランジェロと同じように、完璧さを追求する芸術家たちにとって、自分の顔の欠陥は非常に惜しく感じるものです。そのため、光の当て方などで自分の自画像をできる限り完璧にしようとしているのです。
では、ダヴィッドの顔は一体どのようになっているのでしょうか?ダヴィッドと同じ時代に生きた芸術家たちは彼の肖像作品をいくつか残しました。中でも最も印象的だったのが、彫刻家のフランソワ・リュードの作品です。彼は左右非対称で、明らかに右側の口元が大きく下がっているダヴィッドの顔を彫刻しました。
19世紀フランスのロマン主義を代表する画家、ウジェーヌ・ドラクロワはかつてこのように言いました。「ダヴィッドは理想主義と現実主義を見事に結合させた唯一無二の画風を創り出した画家だ」。しかし、客観的に見て、顔の欠陥を何とかして隠そうとしているところから、やはりダヴィッドは理想主義に傾いているでしょう。画家のナルシシズムというより、完璧さを求める本能でしょう!
(翻訳編集 華山律)