2021年、オーストラリアのパースで山火事の消化活動にあたる消防士 (Photo by Paul Kane/Getty Images)

気候危機は「裏付ける科学的データが不足」…伊研究者報告

イタリアの4人の研究者たちは「世界が気候危機に直面しているという見解を裏付ける科学的データが不足している」との報告を発表した。

IPCC気候変動に関する政府間パネル)に代表されるように、国連は気候変動について対策を講じるよう加盟国に呼びかけてきた。日本を含む多くの先進国は経済的・社会的コストにかかわらず、今後数十年にわたって国民に温室効果ガスの排出を削減させる法律の制定を目指している。報告は、こうした傾向に一石を投じる内容となっている。

報告は自然災害、熱波、作物収量などと危機の指標を時系列で評価した。最終的に、これまでの観測では「異常現象の明確な傾向は見られない」と結論付けた。 

報告の著者はイタリアの国立核物理研究所の物理学者ジャンルカ・アリモンティ氏、農業気象学教授のルイージ・マリアーニ氏、大気物理学者フランコ・プロディ氏、物理学者レナート・アンジェロ・リッチ氏の4人。「地球温暖化時代における異常現象トレンドの批判的評価」と題され、1月13日に欧州フィジカルジャーナルプラスに発表された。

「多くの情報源によれば、観測データに基づく結論として、我々が今日経験している気候の危機は、まだ明らかではない」と報告は述べた。4人は、実際の傾向を考慮したうえで、環境政策の緩和策と適応策を定義するべきだと提起する。

気候の極端化に裏付けなし

データレビューによれば、時間の経過に伴う地球規模の変化をしっかりと反映しているのは、熱波の日数、最大継続時間、積算熱量といった年単位の指標だけであった。しかし、熱波の強度や降雨強度、異常降雨の頻度、干ばつ、洪水、熱帯低気圧などの指標では、気候の極端化を裏付けるような強固な傾向は見られなかった。

生態系の生産性については、衛星データから地球の大部分で「緑化」の傾向が見られ、それが世界中の砂漠を押し退けていることを指摘した。

農業生産に関しては、2003年のIPCCが発表した「気候変動が及ぼす作物や陸上の食糧生産への影響は、世界のいくつかの地域で明らかである(確信度大)」という声明に異議を唱えた。

このIPCCの主張は、世界の農業システムが、遺伝学や作付け技術の革新を取り入れることができる高い適応性を持っているという事実を考慮していない、と述べている。

さらに、これまでの観察では、ある年のある地域で異常気象によって収量減少が記録された場合、その影響は「他の地域で発生する収量増加によって相殺される」ことが説明されている、という。

また、世界の農業生産と収量が増加し続けていることを示すデータも指摘している。

気候の非常事態への懸念は「建設的」ではない

科学者たちは、「人類はその誕生以来、気候の負の影響に直面してきた」と述べ、「データによる裏付けがないまま気候の非常事態を恐れることは、悪影響を及ぼす優先事項の枠組みを変えることを意味する」結論づけた。

これは、「経済的に困難な状況の中で、天然資源と人的資源を浪費し、将来の課題に立ち向かう我々の能力に悪影響を及ぼす可能性がある」と付け加えた。

「子どもたちに、気候変動の緊急事態という不安を与えることなく、バトンを渡すことで、子どもたちは、より客観的かつ建設的な精神で、さまざまな問題に直面することができ、コストや効果のない解決策によって私たちが自由に使える限られた資源を浪費せず、取るべき行動を重み付けして評価することができるようになる」。

科学者たちは「21世紀の気候がどうなるかは、不確実性の高いテーマである」とし、「私たちは、気候変動への対処はそれ自体が目的ではないこと、そして気候変動は世界が直面している唯一の問題ではないことを再認識する必要がある。目的は、21世紀の人類の幸福を向上させることであり、同時に環境をできる限り保護すべきであり、そうしないのはナンセンスである」と警告している。

(翻訳・大室誠)

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