物議を醸したコロナ治療薬がすべて抗マラリア薬なのは偶然?

新型コロナウイルス感染症の治療薬として論争の的となった、ヒドロキシクロロキン、イベルメクチン、アルテミシニンには共通点があります。

それは、いずれも抗マラリア薬であること、あるいはその特性を持っていることです。

様々な研究が、それがただの偶然ではない可能性を示しています。マラリアと新型コロナは、私たちが考えるよりも似ているのかもしれません。

マラリアと新型コロナ

マラリアと新型コロナウイルス感染症は全く異なる病気です。

まず、マラリアは寄生虫症であり、マラリア原虫を持つ蚊に刺されることで感染します。感染すると、寄生虫はまず肝臓に行き、肝細胞で増殖します。その後、血流に移行し、赤血球内で増殖し、細胞を膨張させて破壊します。

その段階で、マラリアの一般的な症状である発熱、悪寒、発汗などを発症します。合併症としては貧血のほか、まれに脳性マラリア、肝不全、肺水貯留、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)もあります。

一方、新型コロナウイルス感染症はウイルス性疾患であり、主に飛沫の吸入によって感染します。ウイルスは鼻腔から体内に侵入し、上気道と下気道に入ります。

体内の免疫細胞が感染部位を撃退する結果、肺炎が起きます。サイトカインストームの出現で炎症が悪化し、肺が損傷を受けると、酸素レベルが低下していきます。血流に入ったウイルスが他の臓器に侵入し、全身性の炎症や損傷を引き起こすこともあります。

複数の共通点

免疫学の専門誌「フロンティアズ・イン・イムノロジー」に掲載された2022年の論文によると、一方は主に血液細胞に、もう一方は主に肺に影響を及ぼしますが、 どちらの疾患も感染初期の強い炎症反応を特徴としています。

症状に関しては、マラリアと新型コロナのいずれも、発熱、疲労、息切れ、下痢、筋肉痛を引き起こす可能性があります。炎症が長引けば、サイトカインが大幅に増加することで、重症化したり死に至る場合すらあります。

そして、この2つの疾患は、いずれも鉄分を捕捉し、発症機序において同じ感染受容体が関与し、類似したタンパク質構造を持っています。

増殖に鉄分が必要

マラリア原虫とSARS-CoV-2ウイルスは、どちらも増殖に鉄分を必要とします。

したがって、どちらも感染細胞内のフェリチンタンパク質内に鉄を蓄えなければならず、フェリチンの増加レベルは重篤疾患や炎症の兆候となります。

そのため、貯蔵鉄を標的とする薬剤や、増殖を防止する薬剤が、マラリアと新型コロナのどちらの治療にも効果を発揮する可能性があります。

感染受容体の類似

マラリアと新型コロナのどちらも、ACE2受容体が関与しています。

新型コロナの場合、ウイルスがACE2に結合して細胞に侵入します。ACE2は人体の至るところに存在しています。以下の通りです。

・肺
・血管
・筋肉
・腸
・神経
・胃
・心臓
・腎臓
・膵臓
・精巣
・子宮

ACE2受容体を多く持つ臓器は、新型コロナの感染リスクが高まります。

マラリアにおけるACE2の重要性は不確かですが、上記のフロンティアズ・イン・イムノロジー誌に掲載された研究ともう1つのある研究では、遺伝的素因のためにACE2が少ない人ほど、マラリアに対して抵抗力があることが示されました。

フロンティアズ・イン・イムノロジー誌の研究によると、マラリア原虫は赤血球のCD147を受容体として細胞に侵入することもあります。

新型コロナの場合も、ACE2が存在していない状況下でウイルスがCD147を受容体とします。また、CD147は、新型コロナにおける血栓形成にも関連しています。

そのため、CD147やACE2を標的とする治療法が、マラリアと新型コロナの両方の治療に効果を発揮する可能性があります。

タンパク質構造の類似

さらに、マラリアと新型コロナの病原体は、タンパク質構造にある程度の重複があります。

新型コロナの表面のNタンパク質は、輸送、付着、侵入を担当する重要なマラリアのタンパク質と、少なくとも40%の構造的類似性を持っています。

これは、マラリアのタンパク質を標的とする薬剤が、SARS-CoV-2ウイルスのタンパク質も標的にできる可能性があることを意味します。

新型コロナ治療に使用される抗マラリア薬

パンデミックの初期には、多くの研究が、新型コロナの潜在的な治療オプションとして、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、イベルメクチン、アルテミシニンなどの抗マラリア薬および抗寄生虫薬を推奨していました。

ところが、これらの推奨事項は、マラリアと新型コロナが全く異なる疾患に見えるというだけの理由で、すぐに反発を受けました。

しかし、これらの治療法が急性の新型コロナの治療に役立つことを、多くの医師と研究が発見しています。

メキシコのヌエボ・レオン州立大学の植物科学を専門とするホセ・ルイス・アブレウ教授は、自身の新型コロナ治療プロトコルにイベルメクチン、アルテミシニン、ヒドロキシクロロキンなどの抗マラリア薬を適用する理由を、「マラリアと新型コロナの類似性」という命題を用いて説明しています。

強力な抗炎症特性を有する薬剤

ヒドロキシクロロキン、クロロキン、イベルメクチン、アルテミシニンは、すべて強力な抗炎症薬です。

医学誌「ジャーナル・オブ・アンチバイオティクス」に掲載された研究によると、イベルメクチンは新型コロナの免疫調節剤になります。免疫系を抑制するのではなく、炎症の重症化や損傷を起こさないように調節するのです。

ヒドロキシクロロキンアルテミシニンにも、免疫調節効果があることが示されています。ヒドロキシクロロキンは、関節リウマチや狼瘡などの自己免疫疾患の治療薬としても承認されています。

また、ジャーナル・オブ・アンチバイオティクス誌に掲載された研究などでは、イベルメクチン、ヒドロキシクロロキン、およびアルテミシニンに、サイトカインストームや肺線維症を防ぐ可能性があることが示されています。

さらに、アブレウ教授は、アルテミシニンが鉄分子と反応し、最終的に酸素を生成することで、低酸素状態の緩和に役立つと指摘しています。

先ほど述べたように、新型コロナへの感染は、ウイルスが増殖するために鉄を捕捉することとも関連しています。

アブレウ教授は、マラリアにおけるアルテミシニンの主な役割は、フリーラジカルを放出することによって貯蔵鉄を標的にすることであり、新型コロナの感染部位でも同じことを行い、感染細胞やウイルスを殺すと主張しました。

新型コロナの感染受容体とタンパク質をブロック

シミュレーション研究では、イベルメクチン、ヒドロキシクロロキン、およびアルテミシニンは、マラリアのタンパク質と構造的に類似しているSARS-CoV-2ウイルスのNタンパク質に結合できました。

マラリア治療に関する研究では、ヒドロキシクロロキンアルテミシニンがマラリアのタンパク質の複製と増殖をブロックすることが示されています。

これら3つの薬剤はすべて、CD147およびACE2にも結合できます。

つまり、これらの薬剤は、新型コロナのスパイクタンパク質に直接結合し、細胞受容体にウイルスが付着するのを防ぎ、ウイルスの複製に関与するタンパク質をブロックすることで、ウイルスの増殖を防ぐこともできるのです。

また、マラリア治療での使用が承認されている、抗CD147抗体のメプラズマブは、新型コロナの肺炎の治療にも有益です。

抗マラリア薬の抗がん効果は?

イベルメクチン、アルテミシニン、ヒドロキシクロロキンには、抗がん作用があることも分かっています。

いくつかの研究が、がんは寄生虫のように振る舞うと仮定しているのは、興味深い観点です。外部寄生虫と同様に、がんは宿主である人体の栄養に依存していますが、独立して機能し、しばしば宿主に損害を与えます。

アブレウ教授は、マラリア、がん、および新型コロナに共通する特徴は、それらすべてが増殖に鉄分を必要とすることだと述べています。したがって、アルテミシニンはマラリア、がん、および新型コロナの予防に使用され、成功を収めているといいます。

寄生虫、ウイルス、がんの間に関連性があるかどうかについて、さらに研究を行う必要があるとアブレウ教授は述べています。

イベルメクチンががん細胞の増殖と転移を防ぎ、数種類のがんにおいてがん細胞の死を促進することが、研究から分かっています。イベルメクチンは、がん細胞が酸素と栄養素を得るために必要な血管形成を阻止することもできます。

ヒドロキシクロロキンやクロロキンも、血管形成やオートファジーを阻止します。オートファジーとは、体内の老廃物を除去した後、リサイクルして新しいものに作り変えるプロセスです。このプロセスは諸刃の剣で、場合によってはがん細胞の生存率を向上させることがあるため、オートファジー阻害薬はがんのさらなる発生も防ぐことができます。

ニューヨークを拠点とするエポックタイムズ記者。主に新型コロナウイルス感染症や医療・健康に関する記事を担当している。メルボルン大学で生物医学の学士号を取得。