会話の途中で突然、単語や人の名前、物の名前を忘れてしまい、考えたり、誰かに促されたりした経験があるでしょう。このようなことが時々起こるのは普通のことですが、頻繁に起こるようであれば、注意した方がいいかもしれません。
オーストラリアのクイーンズランド工科大学の神経心理学教授であるグレイグ・デ・ズビカレー氏は、ウェブサイト『ザ・カンバセーション(The Conversation)』にこう書いています。言葉を忘れることは誰にでもありますが、それが頻繁に起こり、単語や名前、数字をたくさん忘れている場合は、神経障害の兆候である可能性があります。
ズビカレー氏よれば、話すことにはいくつかの段階があります:
(1)表現しようとしていることの意味を特定する
(2)メンタル・レキシコン(心的辞書、心内辞書)から正しい単語を選ぶ
(3)発音方法を知る
(4)発声器官を使って単語をはっきりと話す
ズビカレー氏は、言葉の忘れはこれらの各段階で起こりうる、と言っています。 健康な人が単語を知っているにもかかわらず、その単語をメンタル・レキシコンから取り出せない、つまり正しい単語を思い出せない場合、言語学者はこれを舌先現象と呼んでいます。
舌先現象はよくあることで、主に第3段階で起こる音声エラーです。 この現象に遭遇した場合、人々は通常、言おうとしている単語の意味を説明するために、何らかの情報を提供しようとします。 例えば、Hで始まる英単語で、釘を打つ道具(おそらくハンマー)として使うことができるのですね。
舌先現象はあらゆる年齢で起こりますが、特に高齢者に多く見られます。これらは、認知症に対する苛立ちや心配の種になることもあります。しかし、必ずしも健康上の問題とは限りません。
あまり一般的に使われない単語も、舌先現象を引き起こすことがあります。これは、意味と発音の結びつきが、一般的に使われる単語よりも弱いからかもしれません。
また、舌先現象は、年齢を問わず、話し手が他人から評価されることによる社会的ストレスを経験している状況で起こりやすいことが、実験室での研究で示されています。就職の面接で舌先現象を経験する人は非常に多いとみています。
単語を思い出せない状況は、どの程度になると注意すべきなのか
ズビカレー氏が前述したように、物忘れが頻繁に起こり、単語や名前、数字の忘れが多い場合は、深刻な問題の兆候かもしれません。
言語学者は、脳卒中、腫瘍、頭部外傷、認知症などによる脳の損傷に伴って起こりうるこの状態を、「アノミック失語症」という言葉で表現しています。
健忘症は、発話のさまざまな段階での問題によって引き起こされる可能性があります。臨床神経心理士や言語聴覚士は、どの段階で問題が生じているのか、どの程度深刻なのかを特定するのに役立てています。
例えば、ハンマーなどの一般的な物の名前が言えない場合、臨床神経心理士や言語聴覚士は、その物が何に使われるのか(例えば、釘を打つ)を説明するよう求めます。
もし(その人が)その物の使い方を説明できない場合は、(その人に)その物の使い方の見本を示してもらいます。また、書き始めの文字や音節など、手がかりやヒントを与えることもあります。
健忘症の人のほとんどは、促されてから対象物の名前を思い出すことができます。そのため、このような人たちの問題は、上で挙げた(3)(4)にあると言えます。
しかし、その物がどのように使われるかを説明したりモデル化したりすることができず、ヒントを与えてもうまくいかない場合は、原発性進行性失語症など、より深刻な問題を抱えている可能性があります。アメリカの俳優ブルース・ウィリスは、言語とコミュニケーションに問題を抱えていましたが、この症状に苦しんでいた可能性があります。
ズビカレー氏によれば、健忘症にはいくつかの治療法がありますが、原発性進行性失語症には有効な治療法がないといいます。 言語療法が一時的な改善をもたらす可能性を示唆する研究もあります。
自分自身や家族が言葉を忘れてしまった場合は、かかりつけ医に臨床神経心理士や言語聴覚士を紹介してもらい、アドバイスをもらうとよいでしょう。
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