砂糖の代わりになる甘味料がどんどん増えている中で、アルロースはまだ新顔の存在です。一見すると、普通の砂糖(ショ糖)にそっくりで、甘さも約70%と似ていますが、この2つの白い結晶には大きな違いがあります。
他の砂糖代替品と同じように、アルロースは甘い味わいを楽しみながらも、カロリー摂取をほとんど気にしなくていいのがメリットです。ただし、この新しい甘味料には、まだはっきりと分かっていない点もあるようです。
砂糖の消費について
砂糖の摂りすぎは、世界的な問題になっています。
世界保健機関(WHO)は、砂糖の消費量が急増している状況を受けて、「生涯を通じて砂糖の摂取量を減らすべきだ」という強い提案を出しています。
この問題の深刻さを軽く見ることはできません。WHOは、砂糖の摂りすぎが糖尿病や肥満、虫歯などの病気と関係していることを指摘しています。これらの病気は、世界中で多くの命を奪っている主要な原因です。そのため、WHOは「1日の砂糖摂取量を全カロリーの5%未満に抑えること」を条件付きで推奨しています。例えば、1日2千キロカロリーの食事を基準にすると、砂糖の摂取量はわずか100キロカロリー、つまりティースプーン約6杯分に相当します。一方、平均的な大人が実際に摂っている砂糖の量は17杯分にもなるため、理想とは大きな差があります。
公共の啓発活動のおかげで、一部の人々は砂糖入りの飲み物を減らしているものの、アメリカ全体で見ると、過去10年間で砂糖の消費量は増え続けています。そのため、砂糖を控えながら甘さを楽しめる代替甘味料の市場は急成長しており、2023年にはその規模が70億円以上に達し、今後も拡大すると予想されています。
現在、アメリカ食品医薬品局(FDA)が認可した8種類の砂糖代替品に加え、アルロースも「一般的に安全(GRAS)」と認められ、幅広い用途で使える甘味料として承認されています。
新しい甘味料「アルロース」の登場
アルロース(D-アルロースまたはD-プシコース)は、いちじく、レーズン、メープルシロップ、モラセス(糖蜜 サトウキビや甜菜から原糖を作るときに除去されるもの)などの特定の食品に少量含まれる、希少な天然の糖です。
1994年、日本の科学者・何森 健氏が酵素を使ってフルクトース(果糖)をアルロースに変換する方法を発見しました。トウモロコシ由来のフルクトースが簡単に入手できるため、これを利用したアルロースの商業生産が可能になり、その健康効果への期待が高まりました。
アルロースは、通常の砂糖のように長年にわたる研究データが豊富にあるわけではありませんが、現在のところ、特に2型糖尿病や肥満と向き合っている人にとって有望な可能性を示しています。
「アルロースは、単糖であるフルクトースと似た化学構造を持っていますが、構造上のわずかな違いによって、体がアルロースを単純な糖として利用することを妨げます。そのため、血糖値やインスリンレベルへの影響が非常に少ないのです」と、登録栄養士であるアネット・スナイダー氏(Top Nutrition Coaching所属)はエポックタイムズの取材に答えています。
また、アルロースから摂取するカロリーは、砂糖と比較すると約10%程度と非常に少なく(1グラムあたり0.4キロカロリーに対し、砂糖は1グラムあたり4キロカロリー)だと説明しています。
アルロースの潜在的な効果
韓国の研究者が2020年1月に学術誌「Nutrients」に発表した研究では、36匹のマウスを4つのグループに分け、それぞれ以下の食事を16週間与えました。1つ目は通常の食事、2つ目は高脂肪食(HFD)、3つ目は高脂肪食に5%のエリスリトール(砂糖代替品)を加えたもの、4つ目は高脂肪食に5%のアルロース(ALL)を加えたものです。
実験の結果、アルロースを与えられたマウスは、高脂肪食のみやエリスリトールを含む食事を与えられたマウスよりも体重と体脂肪量が低下していました。研究者たちは、「正確なメカニズムはまだ明確ではないが、5%のアルロースを含む食事が腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化を通じて、高脂肪食による肥満を改善する可能性がある」と指摘しています。
他の動物実験でも、アルロースが体重や体脂肪の減少に寄与することが示されていますが、人間を対象とした研究はまだ限られています。別の研究では、20~40歳の韓国人121人(過体重または肥満)を対象に、低用量(1回4グラム、1日2回)と高用量(1回7グラム、1日2回)のアルロースを12週間摂取する効果を調査しました。この研究は、二重盲検法、ランダム化、プラセボ対照で行われ、プラセボ群には1回0.012グラムのスクラロースが与えられました。
その結果、プラセボ群と比較して、低用量と高用量の両方のアルロース群で体脂肪率と体脂肪量が減少しました。特に高用量群では、12週間後に腹部脂肪や皮下脂肪が有意に減少しており、アルロースの抗肥満効果は摂取量に依存する可能性を示唆しています。
アルロースは血糖値管理にも効果が期待されています。2023年4月に査読付き学術誌「PLOS ONE」に発表されたシステマティックレビューとメタ分析では、炭水化物を含む食事と一緒にアルロースを摂取した場合、食後血糖値の上昇を抑える効果があることが明らかになりました。
この研究では、アルロースがグルコースの吸収を遅らせることや、炭水化物摂取後の血糖値反応を抑制することによって、血糖値を低下させることを確認しています。
また、アルロースは低血糖を引き起こすことなく、血糖値やインスリンレベルを上げないため、糖尿病や糖尿病予備軍の人々にとって有用な砂糖代替品となる可能性があります。さらに、アルロースは砂糖とは異なり、口の中で代謝されないため、虫歯を引き起こす心配もありません。
登録栄養士のアネット・スナイダーさんは、「アルロースは、低カロリーかつ血糖値への影響が少ないため、体重を減らしたい人や血糖値をコントロールしたい人に特に適しています。また、健康目的で砂糖の摂取量を減らしたい人にも役立つでしょう」とコメントしています。
まだ解明されていない点
これまでの研究結果は期待できるものの、アメリカの一部のスーパーマーケットでアルロースやアルロースを含む飲料、ペストリー、ヨーグルトなどが手に入るようになった一方で、いくつかの疑問点は未解決のままです。
カナダやEUでは、アルロースはまだ食品としての認可が下りていません。これは「新規食品成分」と見なされており、人間の食事への使用実績が限られているためです。
2018年に韓国で行われた研究「健康な若年成人におけるD-アルロースの消化管耐性」によると、体重1キロあたり0.4グラムの単回摂取量であれば、健康な若年成人に消化器系の不快な症状を引き起こさないことがわかりました。
同じ研究では、1日の摂取量の上限として体重1キロあたり0.9グラムを推奨しています。例えば、体重約68キロの人であれば、1回の摂取量は最大27グラム、1日の合計摂取量は最大61グラムとなります。アルロース1ティースプーンあたり4グラムで計算すると、1回の摂取量は約7杯分、1日の合計摂取量は約15杯分が目安です。
これらの量を超えてアルロースを摂取した場合、人間への影響についてはほとんど知られていませんが、下痢やその他の消化器系トラブルのリスクが高まる可能性があります。この点には一定の懸念があります。
さらに、実験室での試験(in vitro)では、病原菌の一部、特に クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae) がアルロースを利用できることが確認されています。ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、アルロースが食品成分として人体に与える健康リスクを評価し、さらなる研究が必要であると結論付けました。特にこの病原菌がアルロースを基質として利用する可能性が懸念されると指摘しています。
BfRの報告では、「人間がアルロースを定期的に摂取すると、クレブシエラ・ニューモニエを含む特定の細菌が優位に増殖する可能性がある」と述べています。また、アルロースの定期的な摂取が体内の特定の部位に蓄積するのか、またはこの細菌の発生や感染性に悪影響を及ぼすのかといった点についても、さらなる研究を必要としています。
アルロースは特に2型糖尿病や肥満を抱える人にとって潜在的なメリットを持つ一方で、大量摂取時の安全性についてはいまだ不明な部分が残されています。
登録栄養士のアネット・スナイダーさんは、「アルロースは通常の範囲で使う分には安全ですが、適量を守ることが重要です」と述べています。
(翻訳編集 華山律)
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