非利き手で歯を磨けば認知症を逆転できる、というSNSで拡散している健康情報は、単純化しすぎています。ほとんど検証されておらず、そのため証明されてもいないからです。
しかし、日常の作業を反対の手に切り替えても、脳に全く利益がないという意味ではありません。科学者が確かに分かっているのは、パズルや新しい趣味、学位の取得と同じ理由で、特定の脳の領域が鍛えられるということです。その理由は、難しいからです。
右利きのビクトリア・ブラウンリー氏が日常の作業に左手を使うのは、まさにそのためです。歯ブラシをぎこちなく扱い、読みにくい字を書き、モップがけではかえって散らかし、まぶたにマスカラをにじませる。そのような選択は奇妙に見えるかもしれません。しかし、注意欠如・多動症(ADHD)に悩む女性である彼女の目標は、集中力を高めることです。
「ADHDをなくすことではありません」と彼女はエポックタイムズに語りました。「今この瞬間により意識を向け、より集中し、自分のしていることをより意図的に、より自覚しながら行うことなのです」
非利き手を使う効果は、ADHDのある人に限りません。普通の作業を無意識の自動的な習慣にしてしまった人(つまり、ほぼ誰でも)が、何かしらを得られます。
ぎこちない作業が脳を目覚めさせる理由
非利き手で活動すると助けになるのは、新しい活動が脳への挑戦になるからだ、とUCLAの神経科医アフメット・アラク医師は言います。
「脳は挑戦を好みます。その課題を乗り越えようと練習することは、脳の機能を高めるうえで、内側からの刺激になります」と彼はエポックタイムズに語りました。「非利き手で複雑な作業を練習するのは、確かにふだんはあまりしないことであり、確実に何らかの可塑性(神経回路の変化)を引き起こします」
言い換えると、普通でないことをするとニューロンが強くなり、ニューロン同士のつながりが改善します。これが神経可塑性と呼ばれる過程です。アルツハイマー病などの神経変性疾患に関連する、細胞の衰えに対する防御策として働きます。
研究者たちは、こうした神経可塑性の変化を脳スキャンで確認してきました。『ヒューマン・ブレイン・マッピング』誌に掲載された研究では、右利きの参加者24人が、4週間、左手で指の動きを練習しました。その後のスキャンでは、学習と運動技能に関わる大脳皮質の一部が厚くなっていました。この領域は、通常は加齢とともに薄くなります。あわせて、運動技能と結びつく領域の活動も増えていました。
この研究では、運動制御以外の領域には影響が見られず、この練習が、より広い範囲の脳の利益をもたらしたわけではありません。
それでも、脳がより多くの注意を必要とし、場合によってはより多くの計画も必要とするモードに切り替わるときの利点を、軽く見てはいけない、とワシントン大学の助教授で、神経科学・リハビリテーション研究室長のベンジャミン・フィリップ氏は述べました。その例には、非利き手を使う活動だけでなく、楽器や外国語の学習など、認知に挑戦するものすべてが含まれます。
「逆の」手を使うと、脳全体が動員される理由
この方法が効くもう一つの理由は、脳には二つの半球があり、非利き手に切り替えると両側が働くことです。
通常、それぞれの手は反対側の脳が制御しています。右手は左半球が、左手は右半球が制御します。何年も練習を重ねるうちに、利き手を制御する半球には、日常の作業のための細かく調整された運動技能が大量に蓄積されます。長い時間をかけてインストールされたソフトウェアのようなものといえます。
非利き手に切り替えると、いま制御を担う半球には、その蓄積された技能がありません。そのため、反対側の半球から「借りる」必要があります。つまり、二つの半球が信号をやり取りし、協力して作業を終えなければならないのです。
「もう一方の半球の強みを使おうとするため、結局は脳の両側を使うことになります」とフィリップ氏はエポックタイムズに語りました。「脳ははるかに多くの作業をこなさなければなりません」
もう一つ考慮すべき点として、ほとんどの人は、あらゆる動作で右利き、あるいは左利きというわけではない、と彼は言います。むしろ、片側のほうが上手にできる技能が、動作ごとにあります。たとえば、字は右手で書くが、ボールは左手で投げる、といった具合です。つまり、「より難しい」手は、人によって違うだけでなく、活動によっても違う可能性があります。
動きが重要な理由
さらに負荷を上げたい場合はどうすればよいでしょうか。
難易度を上げるには、正確さと精密さを伴う、滑らかで流れるような動きが求められる活動、たとえば書くことやボール投げを加えてください、とフィリップ氏は述べました。
「動きには、さまざまな情報をまとめ上げることが含まれます。視覚と触覚を合わせ、目の位置に基づいてそれらを揃えるのです」と彼は述べました。「脳はいっそう懸命に働くことになります」
動きと思考は密接に結びついています。ただし、すべての動きが同じように脳に挑戦するわけではありません。単純な運動や、大きな動き(粗大運動)を制御するだけの活動より、多くの脳領域を動員する活動もあります。
たとえば、針に糸を通すには、多くの視覚と感覚のフィードバックが必要になり、重いバケツを持ち上げるよりも多くの脳の力を要します。後者は主に腕力の仕事です。
脳への挑戦は、思うより簡単
毎日していることを非利き手で行うと、二つの条件を満たします。新しいこと、そして脳のより多くの部分を活性化することです。作業を本当に難しくすれば、三つ目の条件(難しさ)も満たせます。
だからフィリップ氏は、非利き手で歯を磨くと認知症のリスクに影響するという特定の主張に、懐疑的です。それほど負荷が高くないからです。
「脳に挑戦したいなら、難しいことが大事なのです」と彼は述べました。「自分にできる最も難しいことを考えてください」
ブラウンリー氏が左手の習慣にマスカラ塗りを加えたのは、まさにそのためです。非利き手で新しい作業を身につけたら、次は新しい活動に挑戦することを考えてみましょう。ビデオゲームで次のレベルに進むのに似ています。
彼女の方法のいちばんよいところは、機器もゲームもアプリも、一日の中の余分な時間さえも必要ないことだ、とブラウンリー氏は述べました。その効果は脳だけにとどまりません。毎日、ある作業で手を切り替えると、注意力がフルに働き、栄養士として、大切な人やクライアントにより心を込めて向き合う助けになってきたといいます。彼女はやめるつもりはなく、食事に対するマインドフルネスを高めるために、クライアントにも勧めています。
「毎日、意識的に自分の脳に集中する瞬間があります」とブラウンリー氏は述べました。「働く手が二つあるかぎり、毎日、脳に挑戦する機会があるのです」
(翻訳編集 日比野真吾)
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