中国経済の現状と展望 その二

【大紀元日本2月3日】程暁農:1985年、中国人民大学大学院修士課程経済学研究科修了後、中国全人代常務委員会弁公庁研究室を経て、経済体制改革研究所に勤務、経済体制改革研究所主任、副研究員を歴任、前趙紫陽首相が主導した改革における中枢の一人として活躍。1989年の天安門事件後、ドイツ経済研究所、プリンストン大学客員研究員を経て、同大学において社会学博士を取得。《当代中国研究》の編集責任者。

ゼロ成長、景気停滞はしばしば起こりうることです。しかし、このような現象が起こったとしても、中国の国家統計局はこのような表現を決して使いません。その代わりに、「経済成長は穏やかである」と言った表現を用います。“8%”という経済成長率を世の中の人々に信じさせることが、国家統計局の重要な任務なのです。“8%”という成長率はマクロ経済のデータと言うより、政治的な指標と言った方が妥当であると思います。中国経済の資料を集める際、中共の宣伝を軽々しく信じることは禁物です。

データは官僚次第

経済成長率をどの程度とするかは、完全に政治的な要求によって、コントロールされているということをご理解頂きたいと思います。現在の中国では「データは官僚次第、出世はデータ次第」という冗談が交わされているようです。

中国官僚の任命制度は、上意下達的体制になっています。上位者は部下を任免することができます。現在では、上位者が部下を評価するに際し、政治的な観点から判断する訳ではなく、経済発展の状況をはじめとする業績を考慮するようになりました。しかし、中共組織部(官僚の任免を持つ組織)の官僚らは、経済というものに関する知識がほとんどありませんでした。それ故、安易に経済的指標を用いて、官僚の業績を評価します。従って、経済成長率GDPは最も重要な評価する項目となります。頻繁に使われる指標としては、各省、市、県のGDPと中央の政策目標である8%というGDPとの比較です。8%を若干でも超えたならば、業績は普通とされ、8%をより多く上回れば、業績は高く評価されることになります。

皮肉な話ですが、現実に大陸で起っていることです。かつての「大躍進」の頃、1畝の土地から、十何万キロもの穀物が収穫できたという誇張された話が、大きく新聞に取り上げたことがあるのではありませんか。このような「共産党文化」による虚像が、数十年経ても変わること無く、今日まで続いており、経済成長率についても、このようにして作り出されたものです。見破れない様より巧妙化し、進化したに過ぎません。統計局の局長は任免権を持っており、希望する成長率やGDPの指示を出したならば、地方の行政や下位の官僚はそれに従うのです。無数の政治運動を経験した中国人は、物事の善し悪しの判断は、中共の言う通りに従うしかないということを記憶させられました。

安徽省の前副省長であった王懐忠は、省統計局に当年度の成長率を22%にするよう指示したということが、大陸の新聞にも報道されました。インターネットで「王懐忠」を検索すれば、何らかの報道を読むことができると思います。当時の統計局長は、とても無理な数字であり、そのような数値は見破られる旨を具申したそうです。すると、王は自分の昇進に関わるものであり、できなければ、首になる覚悟をするよう恫喝したそうです。その局長は、何とか16%という成長率を捻出しましたが、王は、その程度の成長率はでは、他の省と比べられるものではない、と怒ったと言います。

王懐忠は汚職により逮捕され、これらの関連事実は暴露されました。しかし、このような問題が、中国の各省、市、県に数多く存在しています。台湾大学の張清渓教授による中国経済関係の報告では、中国統計年鑑の各省、市のGDPの合計が、全国のGDPを大きく上回っている、ということ指摘したことがあります。これは世界中、中国をはじめとする共産党政権の国家にしかない現象であると思います。中国の国家統計局は、当然これらのことを知っていますから、地方からのデータを半分取り除くことにしています。業界用語では「水分を絞り出す」と呼んでいます。

出世はデータ次第

それでは中国国家統計局が出した資料はどうなのでしょうか?一つの例を挙げて話していきたいと思います。1998年長江の中下流に大洪水が発生、それらの地域に大きな被害をもたらしました。中下流は中国の農業と工業が集中する地域です。年末、国家統計局の関係者は当時の朱鎔基首相へ成長率について、「今年の成長率は、国家目標の8%を若干上回る8.1%にて公表する予定でおりますが、いかがでしょうか」と報告しました。朱鎔基首相は「それでは、大洪水による被害が嘘のようではないか」と指示しました。国家統計局は8%に下方修正し、再び朱鎔基首相に報告しました。朱鎔基首相は「こんなに被害を受けていながら、当初予定の8%では誰でも疑うだろう」と却下、結局7.9%になりました。情けない話ですが、これが中国1998年度成長率の真相なのです。

民主、自由主義国家の方々は、このような現実を理解し難いと思います。このような「共産党文化」は、完全に中国社会を支配し、官僚が出世しようとするならば、上役にへつらうことが一番の近道となってしまいました。社会全体の信頼性が崩壊してしまったのです。

続く

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