【季節のテーブル】百人一首の日

千早振る 神代も聞かず 龍田川 唐紅に 水くくるとは

【大紀元日本5月25日】この歌は百人一首の17番目に登場する在原業平(825~888)の歌です。漢心(からごころ)と千早振る神代の耀きが、勢いよく一緒に潜って流れていきます。

龍田川の水が、くくりぞめ(絞り染)の唐紅(深紅の色)に染まってしまうなんて、千早振る力をふるって奇跡を起こせた、神代の時代でも聞いたことがないほど、それは鮮やかな景色でございました。龍田川には竜神様がきっといらっしゃって、こんな不思議を現し、紅葉の落ち葉の真っ赤な色に、そのお姿を確かにとお示しになったのでございましょう。

百人一首の選者は、藤原定家(1162~1241)です。『明月記』という日記を56年間も書き続けました。1235年5月27日に歌百首を選んで書写し、京都・嵯峨の小倉山荘の障子に貼ったと『明月記』に記されています。現在はこの日が「百人一首の日」とされ、日本各地の歌詠み人たちの集まりで、歌留多の催しなどゆかりの行事が活発に開かれています。

『明月記』は漢文で綴られた日記です。定家は父・俊成の「幽玄」の歌心から転出し、「有心」の歌の境地を拓きました。漢文を諳(そら)んじる豊かな教養の上に、大和心の機微を和歌の言の葉に織り込むことが出来た名人でした。

平安時代の歌人たちの多くは「漢詩と和歌の心」を卒然と同居させて、心の迸りを湛えた歌をヒットソングのように創り出していました。それはまるで自然が成長し芽吹くような、いつでも心の準備が整った発露でした。真名(漢字)と仮名(ひらがな・カタカナ)が、やがて日本文化を表現することとなる揺籃期の一里塚の姿でもありました。

(イザヤ・パンダさん)

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