ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(番外編-1)

【大紀元日本7月24日】東京という街は非常に不思議なところがある。江戸城を挟んで西と東とでは、土地の気が全く違うのだ。西は、麻布、代官山といったハイセンスな町に代表されるが、東の上野などはアメ横などでも知られるように下町の代表格だ。私は、ある土曜日の昼下がり、猫の目女の誘いもあって、上野公園に行ってみることにした。ここには、有名な国立美術館や動物園などもあり、適当な広場と緑も相俟って、土曜の午後ともなると、家族連れやカップルで賑わい、唐黍売りやかき氷などの屋台も立ち並ぶ。

私が公園の一角に車を停めると、丁度広場のあちこちで怪しげな宗教団体らが、ハンドスピーカーでなにやらガナリ立てながら、10-20人程度の聴衆相手に説法のようなものをしている。「ですから、皆さん!!悔いあらためるなら今です!・・皆さんには、前世の罪業というものがあり、大宇宙の貴公子こそがこれを解くことができるのです!ですから一歩勇気をもって踏み出しましょう・・」などと言いながら、募金箱を聴衆の前に出している。「ですから、皆さん!・・勇気を形にしましょう・・身をもって示しましょう・・・」「ハイ、ありがとう!ナツメさんより、ヒグチさん・・ヒグチさんより、フクザワさんを歓迎します・・」。

私は、その光景を見ているうちに居ても立ってもいられなくなり、金遁雲を出るとツカツカと足早に偽説法者の傍に歩み寄った。私は「一寸失礼」とハンドマイクを奪い取り、一気にまくし立てた。「皆さん!ついに最後の時がやってきました!地球の大掃除の時がきたようです!」私の声には気と功がよく入っているので、聴衆は一瞬にして耳目を奪われる。「・・皆さん、よく聞いて下さい!ついに宇宙のあるところにお隠れになっていた宇宙光明神がお目覚めになり、十大惑星の外にいたこの大宇宙光明神軍が、進撃を開始し、この地球にも到達しようとしています・・」・・聴衆はザワザワとしだした。隣の偽説法者は凍りついたようになっている。

聴衆の一人が「・・・じゃ、そのなんとか神軍が地球に来たのなら、どんないいことがあるんだ?」と聞くので、「う~ん、そうですね・・善が勝つというか、有徳の士が現世で台頭するというか・・・よこしまな神が衰退していきます・・悪漢などは非常に住み難い世の中になるでしょう・・」。現世利益ばかり聞いてきた日本の聴衆は、首をかしげるばかりだ。ステテコ姿の年配の人が「・・じゃ、何か、おまえは一寸古いが鞍馬天狗か?正義の使者なのか?なんで、その、なんとか神軍が来たって分かるんだ?」というので、「地球には、劫が山積していますので、この神軍が来たときには、大きな台風だとか、地震だとか、天変地異によって劫を清算するような動きがあります。ですから、すぐに分かります・・・」。聴衆はますます首をかしげるばかりだ。

すると、傍らに猫の目女が寄って来て、袖を引っ張る。「・・キチガイだと思われるから、もうよして・・」。すると、首をかしげていた聴衆が、「・・天変地異が、正義の使者だって、こいつはオカシイぞ・・どうも言っていることが、鸚鵡返し教の教義に似ている・・あっ、分かったぞ、こいつは鸚鵡返し教の残党に違いない!」と指差して非難し始めた。私は、あわててかぶりを振って「何を!?私は鸚鵡返し教を処分してきたばかりです!」と言ってはみたが、聴衆は聞いてくれない。「いや、違う!こいつは、頭一教会の輩だ。その分派にこういった節理などという団体があるのを聞いたことがある・・」「いや、こいつは金遁雲交通などという変なバッジをつけている。ファンタジーの読みすぎで、頭がトリップしている奴だ!」などと非難轟々の有様だ。

気が付くと、公園の広場には誰もいなくなっていた。ただ烏やら鳩やらが、聴衆の食い残したパンくずなどを啄ばんでいるだけだ。私は、呆然自失となっている偽説法者にハンドマイクを返すと、何やら寂しい気分になった。屋台で唐黍を買って、猫の目女と上野公園を後にしようとした時、ブルーシートのホームレスが声を掛けてきた。「旦那!落ち込まない、落ち込まない!・・誰だって、失敗はあるんだから・・俺にはあんたの言っていることがなんとなく分かったような気がしたよ!」。大道廃れて、仁義ありとは、このようなことなのだろうか・・???・・・。

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