独メルケル首相対中外交、経済優先から人権重視に

【大紀元日本8月31日】ドイツメルケル首相の中国訪問が幕を閉じた。同首相の訪問中の行動から、ドイツの対中国政策は、「経済優先」から「人権重視」に回帰する兆しが見受けられた。

アジア・タイムズ紙は、「メルケル首相訪中の3日間、最も注目されているのは、胡錦濤・主席や温家宝・首相との会談ではなく、中国社会科学院で行われた人権尊重の重要性をアピールする講演と、政府批判をしてきた4人のメディア関係者との立会談である」と報じた。

中国社会科学院での講演では、同首相は、中国の経済発展と国際貢献への参加を歓迎すると表明する一方、中国当局はもっと国民に発言権を与えるべきであると促し、「人権は我々にとって非常に重要である。(中略)自己をほかの人の上に置く権利はだれも有しない。(中略)人類の尊厳を分断してはならない」と述べた。過去にも、外国元首が訪中した際に、人権尊重を促す言論を発していたが、近年では「経済優先」からか、そういう声が聞こえなくなった。「メルケル首相の人権外交に復帰する意向が示されている」との見方が出ている。

また、同首相は、政府を批判してきた4人のメディア関係者と独立会談を行った。4人とは、「中国青年報」の週刊誌「氷点」の李大同・元編集長、同紙の撮影記者・賀延光氏、中国青年政治学院新聞学部の展江・主任、「捜狐ネット」の「博客チャンネル」の趙牧・責任編集者。李大同氏によると、参加者は首相に、中国メディアの現状と言論自由の問題や、新鋭メディアによる中国社会への働き、中国社会が抱えるその他の問題などを説明したという。

ドイツのシュレーダー前首相は在任10年間、ほぼ毎年中国を訪問したが、中国当局と親密な関係を保ち、経済貿易を重視する路線を続けており、中国の人権問題にあまり触れなかった。メルケル首相が今回の訪中で表した「人権重視」の姿勢は、中国の最高指導部が望むものではないはずだ。

訪中の直前に、ドイツ週刊誌『シュピーゲル』は、政府機構の報告書を引用、「首相府と外務省のほかに、経済省や教育研究省などのコンピューターが、中国からのスパイウエア(ウイルス)に感染していた。情報機関が調査した結果、これらのハッキングは、中国の軍事部門が関与している可能性が高い」と報じた。

今年は、独中両国の国交締結35周年にあたる。しかし、メルケル首相は、胡錦濤・主席、温家宝・首相との会談で、圧力重視の姿勢を頻繁に示した。首脳会談で、地球温暖化や、ダルフールでの虐殺、知的財産権の保護などの問題が提起されたが、中国側が最も関心のある、対中武器禁輸の解禁問題や、リニア鉄道建設の協力プロジェクトなどは、進展がなかった。

中国の排気ガス排出量は米国に続き、世界第2位。地球温暖化防止問題について、メルケル首相が温家宝・首相と会談する際に、中国側に排気ガス削減目標達成への努力を促したが、温家宝・首相は、経済を犠牲にしてまで、削減目標を達成する考えがないと強調、中国は「共通していながら、違いのある責任」しか負わないと歩み寄りを見せなかった。すなわち、両首脳は地球温暖化問題において、各自の見解を表しただけに留まり、具体的な成果を挙げなかった。

ダルフールでの虐殺問題について、メルケル首相は温家宝・首相に対し、スーダン政府に圧力をかけるよう要請した。

知的財産権保護の問題について、メルケル首相は、中国は関連法律を有しているが、実行は不十分であるとの認識を示した。これに対し、温家宝・首相は、実行の強化を承諾した。

さらに、欧州連合(EU)の対中国武器禁輸問題について、中国当局は、今年の欧州連合議長国を務めるドイツに対し、武器禁輸の解除への働きを期待していたが、メルケル首相は欧州憲法の作成に重心を置き、対中国武器輸出問題の議論が先送りされた。今回の訪中も、この問題に触れなかった。

また、建設費用が43億ドルと言われている上海・杭州間のリニア鉄道のプロジェクトについて、メルケル首相が昨年訪中の際に、両国は全力で推進するとの共同認識に達したが、今回の訪問では、この問題も提起されなかったもよう。情報によると、ドイツ側がリニア鉄道の核心技術の譲渡を拒否したため、去年6月からこのプロジェクトの両国間交渉が難航しているという。

メルケル首相が就任してから3年、その対中国政策も徐々に明確になってきた。シュレーダー時代の全面的な親中姿勢から、批判しつつ友好を保つ態度に変化した。

(記者・叶子総合報道)

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