天子の舞楽の神秘的な力

【大紀元日本9月17日】

黄帝の「雲門」と帝の「咸池」

中国人の始祖といわれる黄帝の舞楽は「雲門」と称される。黄帝は5千年前、蚩尤(しゆう)を打ち、諸侯の人望を集めてその名を天下にとどろかせた。「雲門」は黄帝が中原に鎮座しその威厳を四方へとどろかせたことを称える賛歌であった。「山海経」の中で黄帝は、人の世の至尊であるばかりか、崑崙山頂の天帝でもあったことから、「雲門」は天神を祭る象徴となった。

黄帝の子孫といわれる尭帝の舞楽は「咸池」と称される。黄帝の作曲したものを改編したと伝えられる。「咸池」とは天上の西宮星の名で、この舞楽は二月の種まきの時期に演じられ、耕作に関連する内容のものだったと考えられている。

「荘子」天運篇によれば、ある時黄帝が洞庭湖畔で「咸池」の舞楽演奏を催した。それを観た家臣の北門成は、初め恐れを感じ、次に緊張感がなくなり、観終えると心が落ち着かず当惑するばかりであった。そこで彼は、黄帝に理由を尋ねた。黄帝はまず北門成の感覚を肯定した上で、次のように説明してくれた。「この舞楽は、初めにまず雷に打たれたような衝撃を受ける。それは、この舞楽が天地万物には始まりも終わりもなく、循環を繰り返すだけだということを表現しており、宇宙は無窮で、生命ははかないということを表しているからだ。それゆえ、この舞楽を観ると、人は恐れを感じる。この舞楽は続いて、この世の万物が陰陽の調和が取れ、剛柔が相補い合っているということを表現しているため、観る者の緊張感を解くことができる。そして最後に、生死や無声無形の境地を表現していることから、観る人を当惑させることになるのである」。

人がもし、迷いの中ではっきりと己の本性を認識することができたなら、それは人の生まれた原点に戻るべきなのだろう。荘子は「咸池」を借りて、自らの道家思想を説明し、原始的な祭祀舞楽の神秘的な力について解き明かしたのである。

帝の「韶」

尭帝の後を継いだ舜帝の舞楽は「韶」と称された。4千年余り前に創作されたと伝えられており、天神が人類に与えたある種の神聖な趣きを持つ宗教舞楽だと考えられている。それは、舞の中に九回の変化と九段の歌詞があることから、「九辯」「九歌」とも称されている。この舞楽を演ずる際は簫(しょう)の伴奏が入り、多人数で奏で舞われるため、その場は光り輝き壮大なものになる。

2千年あまり経った春秋時代に、魯の国でこの舞楽を鑑賞した呉季札は、「内容が素晴らしく、場景も壮大で、天空のように全てを覆い、大地のように全てを担っている」と賛嘆したと伝えられる。

孔子も斉の国で「韶」を鑑賞し、その内容と芸術レベルの高さを称賛して、「善美の極みである。この舞楽に浸れば、三カ月は肉の味が分からなくなる。舞楽がこれほどに人の精神を陶冶し影響を与え、一切を忘却させる域にまで到達させうるとは思ってもみなかった」と讃えた。

「尚書」の中の尭帝と舜帝に関する記載によれば、尭帝は舞楽の規準などの一連の重要な文化措置を制定し、舜帝は典楽官を設けて舞楽のことを司らせ、貴族の子弟らの指導に当たらせた。その際、人に対し正直で温和であり、大きな度量を持ち、頑強であって暴虐ではなく、質素であって傲慢ではない人を育てるよう、さらには、文学や詩をたしなみ、音楽の素養を備えて人と神の調和を図ることのできる人に育てるよう求めた。

中国では古来より、舞楽は優れた教育方法だと考えられており、舜帝が正にそうであった。

(翻訳/編集・坂本、瀬戸)

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