「古今集(猿丸大夫)」
【大紀元日本10月3日】一千億夜の昼の静けさを包んで、深山(みやま)を引き裂くように鹿の声が走ります。白鹿のその声は山を踏みしだく足元に、秋の気配を立ち昇らせるのです。
芭蕉の一句に「秋深し 隣はなにを する人ぞ」があります。芭蕉はこの時すでに病に伏し、死出の旅に赴きつつあったのです。芭蕉が吟じたトナリの人は、漂白する自画像のドッペルゲンガーでした。秋の奥山には、彼岸を問いかけるセンスがあるのかも知れません。
10月の花札には、「鹿ともみじ」が配されています。鹿は神の使いです。もみじ=紅葉は秋の季節の女神が纏(まと)う衣装です。秋の女神に抱かれた鹿が、紅葉狩りの宴を開始する時の声を告げ、鹿鳴の杜で仮面舞踏会が開かれます。神無月(陰暦10月)の神々は都会を去って秋の奥山に参集して、千秋の実りをもたらす謀(はかりごと)を巡らすのです。
天高く馬肥ゆる秋にコスモスが回復し、秋鮭(あきあじ)は産卵の棲家を求めて原郷へと川を遡ります。白鹿の角はそのまま枝別れして天に達するなら、咆哮する雷鳴の稲光を描き切るに違いありません。奈良公園(奈良市)では、今年も恒例の「鹿の角きり」(10月6日から3日間)が行われます。天の雷(いかずち)の怒りを鎮めて、千秋の豊作を予祝する儀礼なのです。
(洸)
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