書評:『ハロウィーンがやってきた』(レイ・ブラッドベリ著)

【大紀元日本10月19日】ハロウィーンの風は、一千年の幾層倍もの年月を吹き渡ってやって来る。どんな辺鄙(ぴ)な田舎町にだって、それはやって来る。子供の心が溢れている所で、つむじの風を吹かすのだ。

アメリカ中西部のとある州の北外れの小さな町に、今年もハロウィーンがやって来た。この町の9人の子供達の心臓をガラガラ揺さぶって、恐怖と感激で小躍りさせるハロウィーン。10月31日のハロウィーンの晩に、9人が仮装していつものようにおちあうことになった。もちろんハロウィーンの晩に、とびっきりの冒険を一緒に体験するために・・・。

ところが集まったのは8人。誰か?が、一人足りない。仮装しているので誰なのかが、分からない。それでも皆には分かった。総大将のピプキンがいない。仲間の一人が叫ぶ、「千万年たったってハロウィーンを忘れるやつじゃないのに」。別の一人が叫ぶ、「もしピプキンが病気だったら?」さらに別の一人が「ピプキンがいなくちゃハロウィーンにならないよ」

ハロウィーンを感激の夜にしてくれるリーダー、ピプキンを、8人の子供達は捜しに出かけた。ピプキンは子供たちの中で、最も優れたとびっきりの冒険王だった。例えば、万聖節に讃えられる聖者のようなものかな?彼がいなければ、ハロウィーンは面白いものではなくなってしまう。彼がいなければ、本当のハロウィーンは始まらない。ピプキンを呼びに行かなくっちゃ・・・。

8人の子供たちはピプキンの家のドアを、ノックした!ドアが開いた・・・。わき腹を片手で押さえ、青ざめた顔のピプキンがそこに立っていた。ハロウィーンの仮装もせずに、老人のようにやつれていた。まるでハロウィーンの死神に、取り憑かれたかのようだった。

仲間の一人が心配そうに尋ねた。「病気かい?」 ハロウィーンの夜に病気になるなんて「冗談いうない」と、ピプキンはきっぱりと言い放った。いつものように幽霊屋敷でおちあおう!すぐ追いかけるからと約束して、「位置について。用意。どん!」と8人を送り出した。

ハロウィーンの夜を過ごすうってつけの幽霊屋敷を、8人は転げる様に心臓を高鳴らせて目指した。幽霊屋敷の裏手に回ると、今まで見たこともない、ハロウィーンツリーを発見して皆は驚いた。こんなツリーはなかったからだ。新しい冒険の予感におののく8人の前に、ハロウィーンツリーを背にして黒い服の大男がニョキニョキと現れ、枝のような両手を広げ、パックリした口から不穏な秋の風を送ってよこした。

マウンドシュラウドと名乗った黒い男は、「もてなしはしない、いたずらだけだ!」と宣言し、いたずらだけのハロウィーン冒険に参加するように呼びかけた。ハロウィーンで仮装する訳や、それがどんな風に始まったのか、ハロウィーンの全過去・・・すべてが埋もれた<未知の国>へ飛び込んでゆく度胸を8人に問いただした。カボチャの火を輝かせる背後の闇から、ハロウィーンの骨を素手で拾ってこなければならない。

8人は冒険へ旅立つ決心をするが、彼らの英雄・ピプキンはまだこの場に到着してはいなかった。ピプキンを待たなくっちゃと、8人は思った。そこへあえぐようにカボチャの提灯を持って、一人の少年が駆けつけてきた。それは紛れもなくピプキンだった。しかし、ピプキンが手に持つカボチャの火が消えたかと思う暇なく、巨大な<何か>がピプキンをさらっていった。ハロウィーンの全夜をおおう不気味な影の翼の羽音を残して、ピプキンは皆の前から消えてしまった。

「どこへ、どこへ?」とたずねる8人に、マウンドシュラウドが答えた。「<未知の国>へだ。きみたちに見せてあげようと思っていた場所へだ」。こうして8人の<未知の国>への冒険は、ピプキンをハロウィーンの夜の闇=死神から救い出す探索へと変更された。

狂言回しのようにマウンドシュラウドが、新たな問いかけで冒険へのジャンプを促す。「どうだな、諸君?二つの謎をいっぺんに解いてみたくはないか?行方不明のピプキンをさがしだし、ハロウィーンの秘密を解きあかすんだよ、たった一日の大冒険で!」

ハロウィーンツリーの根っこに横たわる死の谷底を、ぎょっとするほど直視して、ピプキンの魂が拉致された足跡を捜す冒険が始まった。冒険に次ぐ冒険・・・そしてついに、ハロウィーンのミイラ=死神たちがピプキンを幽閉している地下墓地を発見する。ピプキン一人では・・・、ここから脱出できない。仲間8人の!・・・助けが必要だった。

ハロウィーンツリーの案内人・マウンドシュラウドが提案する。「ピプキンを助けるんだ、諸君。取引をしよう」。マウンドシュラウドが提案した取引に、ハロウィーンの全冒険の結末が待っていた。8人の子供たちそれぞれのローソクの火=寿命の1年を、ハロウィーンの死神に差し出せば死んだピプキンを奪い返せるというのだ。

ハロウィーンの大鎌は10月31日に、ありとあらゆる生命の1年の命の一切合切を刈り取ってゆく。11月1日の新年の太陽を迎えるために・・・。子供たちの命だって例外ではない。刈り取られる秋の収穫の中に、地球上の全人類の命の1年分も含まれている。8人の子供たちは自ら決断して、1年の寿命を子供たちの聖者・ピプキンのために死神に差し出した。それは全員がそうしなければ、ピプキンは危うかったのだ。差し出された8人の8年の命は、ハロウィーンツリーへの聖なる贈り物として、ひときわ美しく輝いたようだった。

8人が町に戻ると、ピプキンは病院にいた。一歩誤れば手遅れだった盲腸の手術を終え、無事に死の淵から生還したピプキンがいた。8人は安堵した。それ・・・、がどんなことだったのかを、子供たちは初めて知った。ハロウィーンで仮装する訳や、それがどんな風に始まったのか?自分の1年の命を仲間のために投げ捨てることによって、知ったのだった。

(「 」内引用は、伊藤典夫訳による)

(凌)