中国語には、中国を侵略した外国勢力をののしることばに『鬼子』というのがあり、それが日本軍であれば『日本鬼子』となります。この場合の『鬼』は日本語で言うところの「おに」ではなく、「日本の畜生ども」といった意味です。
中国語の『鬼』は本来、死者の「霊魂」を指しました。それが、マイナスのイメージを伴い、かつ漠然とした実体を持つことによって、「幽霊」となり、さらには「妖怪」に変化していきます。
そしてこのマイナスのイメージが今現に生きている人に適用されたとき、その人を蔑称する表現となります。『酒鬼』(飲んべえ)、『胆小鬼』(臆病者)といった具合です。『鬼子』もこの用法の一つと考えられます。
さらには、『心裏有鬼』と言えば、「心中やましいところがある」という意味になり、『鬼天気』と言えば、「いまいましい天気」といった意味になりますが、これらの用法もすべて『鬼』のマイナスイメージからの延長線上に位置づけることができます。
一方、日本語の「おに」は、「隠れて人の目に見えない」という意味の「隠」(おん)が変化し、それに「鬼」の字が当てられたものだと言われます。本来、中国語と同じく死者の霊魂を指し(例:護国の鬼となる)、それが次第にマイナスのイメージを伴って、「もののけ」を指すようになりました。
ただ、日本語では、それが仏教でいうところの餓鬼や地獄の兵卒である青鬼・赤鬼等と混同されて、次第に鬼の形相が形成され、ついには、頭に牛の角を持ち、裸に虎の皮のふんどしを締めた、節分で追い払われる鬼に定着しました。
「鬼ばばあ」や「仕事の鬼」といった表現に見られる「鬼」も、怖い形相をした実体を持つ鬼をイメージして生まれた表現だと考えられます。
(智)
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