軍部が頻繁に介入 権力闘争で混乱する中国の外交路線

【大紀元日本10月13日】「争議を棚上げにして共同開発」。尖閣諸島の主権問題について、ポスト毛沢東時代の中国の最高実権者だった_deng_小平が打ち出したこの方針でここ数十年中国の対日外交は貫かれてきた。しかし、9月7日に起きた漁船衝突事件で中国側は、逮捕された中国人船長の即時釈放の要求から始まり、日中間の閣僚級以上の交流停止や、観光業と民間交流の中止、貿易制裁の措置、そして日本人逮捕と、これまでになかった強硬な立場を取り続けてきた。氷を溶かすようにと胡温現政権が唱えてきた日中関係は、これまででもっとも冷え切った様相を呈した。

そして今月11日、ベトナム・ハノイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議で日中間の閣僚級の交流が再開した。北沢防衛大臣は中国の梁光烈・国防相と会談を行ない、尖閣の領土所有権問題について、双方とも「適切に処理する」との発言に止まり、主権問題について触れなかった。1ヶ月も続いた日中間の対立はこれで幕が下り、両国の関係は原点に戻ったものと見られている。

では、中国側が主導したこの1ヶ月間の硝煙弾雨(しょうえんだんう)はいったい何の目的だったのか。2012年に開く予定の中共第18回党大会を前に派閥闘争が激しくエスカーレートしているこの時期、中共軍部は頻繁に強硬な発言を発し、政局に影響力を強めようとする意図が見えている、とワシントンポストが最近の記事で分析した。

外交問題に頻繁介入

ウォールストリート・ジャーナルも先週の報道で、今回の日中間衝突を含め、最近中国と隣国との増え続ける摩擦では、中共軍部が外交に介入し、外交に影響を与えている要素が強いとの見方を示した。

同記事によると、10月15日開幕の党内会議で、胡錦濤総書記の後継者として最有力視される習近平国家副主席(党内序列6位)が軍の要職、中央軍事委員会副主席に選出されるかどうかが関心を集めている。現在中共軍部がどの程度勢力拡張を図っているのか、党の指導者からどの程度の支持を得て国益の拡張について再定義しようとしているのかは明確になっていないが、ここ数カ月、軍部関係者は、直言の度合いを強め頻繁に外交部への批判を繰り返しているのが現状である。外界から、中国はここ20年積んできた巨大な経済力をどちらへ向けようとしているのか、懸念が示されている。

その一例として、同記事によると、9月24日シンガポールでの会合で、日本の田中前副外務大臣が、尖閣争議における日本側の措置を弁護すると同時に、日本は中国漁船船長の釈放を発表した。しかし同会合での質問時間の際、中国防衛大学防衛学院の院長を務める朱成虎少将は、田中前副外務大臣の発表内容について厳しく批判し、注目の的となった。同会合に出席した中国前外相、国務委員である唐家璇よりも、中国外交の代弁者の役を演じることとなった。

また、同少将は今年6月、シンガポールでの別の会合で、解放軍の馬暁天副総参謀長と共に、米国の台湾への武器売却に関してゲーツ米国防長官に対して強硬な抗議を行なった。

また、8月の米韓演習について、軍部のある高級将校が、「私は攻撃されなければ、私も人を攻撃しない。人がもし私を攻撃すれば、私もやり返す」と警告した。

9月、解放軍のスポークスマンが、領土争議の解決策として尖閣列島周辺に軍艦を派遣すると発言した上、日本円のレートを上げて日本の輸出企業を叩くとの強いメッセージまで発した。

南シナ海問題:中南海への難題

一方、昨日ハノイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議で米ゲーツ国防長官は、ASEANの一部メンバー国と中国の領有権紛争を抱える南シナ海問題について、領土争議の解決は米国の利益に関わっており、「外交を通じ国際法に沿って解決されるべきだ」と訴えた。中国への間接的なけん制である。

先月ニューヨークでの国連総会でも、米オバマ大統領はASEANの首脳たちと会談、南シナ海問題について東南アジア諸国との關係を強化すると発言し、中国けん制のスタンスを示した。

南シナ海問題について今年3月以来、米中間の対立が徐々に高まった。これまで南シナ海の領土争議問題については、中国は関係国のみと交渉し国際化することを避けるというスタンスだったが、3月初め、スタインバーグ米国務副長官とベーダー国家安保会議アジア上級部長が中国を訪れた際、中国の政府高層は二人に、台湾、チベットのほかに、南シナ海を自国の主権、領土保全と関連した「核心的利害」地域とみなしていると話した。中国政府が米国に、中国の南シナ海における立場を初めて公式に通知する席となった。

南シナ海問題をASEANの間で協議することは北京政権にとって最も望ましくないことだ、と米国在住の中国問題専門家・石藏山氏は指摘する。南シナ海は中国の核心的な利益であるというスタンス発言は、従来、中共軍部と米国軍部の間に留まる話題のはずだったが、中国政府が米政府高官にこのように発言したのは異例なことであり、中南海高層の内部闘争に関係している可能性があるという。

実際、南シナ海は核心的な国益と発言した後、国際社会で一連の反発を招き、中国のトップ責任者らのメンツが大きく潰されている。裏で中国軍部の一部権力者が中南海高層に難題を作り出していると石蔵山氏は指摘する。その狙いは、南シナ海海域や、米国や日本に向かっているのではなく、「中南海高層をターゲットにしている」と、同氏は指摘する。

ワシントンポスト:中共内部の利害衝突

少し前にワシントンポストは長編の文章で、最近の日中衝突によって「中国外交政策決定の過程で、利益集団の激しい勢力争いが暴露された」と述べた。この勢力争いの図式に、次世代の軍首脳や党中央及び国務院所属部門、さらに国営企業及び官製メディアが、中国の対外関係について定義しようとする争いが見られるとしている。

報道は北京の外交官のコメントを引用し、日中海域争議の摩擦において、中共外交部がこれまでの比較的マイルドな態度から強硬姿勢に変えたのは、中共軍部の影響が原因だとしている。

外交への軍部の強い介入に、前フランス駐在大使で現在全国政協外事委員会副主任および外交学院院長である呉建民は、「私に言わせれば、解放軍の将軍が外交政策に公開声明を出すとはとんでもないことだが、これこそが今日の中国なのだ」とメディアに、軍部への不満を洩らしている。

メディアを監視する中央宣伝部の影響もある程度外交政策の不一致をもたらした。中央宣伝部は、中共政権の統治を強めるため、政府系メディアに外国への批判を助長する方針を取っている。

そのほか、パキスタン原子力発電所及びイラン石油貿易問題に見られる中国核工業グループや中化総公司等の大手国有企業の行動からも、利益集団の中国の対外関係への実際的な影響が窺える。

ワシントンポストの記事は、これらの競合する利益集団が中国外交の路線を混乱させたと指摘した。中共総書記の座にすでに8年就いている胡錦濤だが,本当に実権を握っているかどうか、外部にはいまだ知られていない。目下のところ、胡錦濤は中共中央政治局9人の常務委員のトップだが、政治局9人の常務委員中少なくとも5人は江沢民派メンバーである。上海復旦大学のある専門家によれば、この情勢が中国政府を軟弱無力にし、各種政治勢力が互いに疑心暗鬼となっているという。

(日本語ウェブ報道編集部)
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