中国産米、1割がカドミウム汚染 しかし流通は「自由」=中国誌調査

【大紀元日本2月16日】広西チワン族自治区桂林市の思的村に住む84歳の李文驤さんは、ペンキが剥げてまだらになったテーブルの下から米袋を引っ張り出した。純白でつやつやとした透明感があり、粒もふっくらしているこの米。一見しただけでは、どこに問題があるか見当もつかない。

だが、この米には基準値を超えるカドミウムが含まれている。現地の人々はこのような米を「カドミウム米」と呼んでいる。14日出版の中国誌「新世紀週刊」は、中国国内で流通している国産米の約1割が、このような「カドミウム米」であるという深刻な状況を取り上げている。

村を襲った奇病

李文驤さんは、20数年もの間、普通に歩くことができない。「ほんの100メートルほど歩くだけで、脚とすねが痛くてたまらなくなる」と話す李さんは、自分の奇病とカドミウム米に何か関係があるのではないかと考えている。

医師もはっきりと病名を告げることができなかったので、李さんは自分の症状に「軟足病」という名前をつけた。李さんによれば、思的村には同様の症状をもつ村民が十数人いるという。

同じ村に住む71歳の秦桂秀さんも4、5年前から足に力が入らなくなったばかりか、歩くたびに足が痛み、また腰痛にも悩まされている。秦さんによれば、このような村民は十数人どころか50人はいるという。

また、80年代の初め頃、別の村から思的村に嫁いだある女性は、当時から、この村で生まれる子供は「骨が柔らかい」との噂があったと証言する。

カドミウムに汚染された米

1986年に思的村の土壌調査が行われた。調査当時、同村の土壌のカドミウム含有量は国の基準値の26倍である7.79mg/kgに達していた。また、同じ年に実施された別の調査によると、同村で収穫された水稲のうち、早稲(わせ)には基準値の3倍の0.6mg/kg、晩稲(おくて)には基準値の5倍を超える1.005mg/kgのカドミウムが含有されていたという。

カドミウムは自然界の鉱物の中に存在する重金属の一種で、人体に進入すると、何年もたってから「骨痛」や「骨軟化」などの症状が現れ、ひどくなると「イタイイタイ病」に至る。

この点については、すでに国内の複数の土壌学者が、論文や公開講義において、思的村の少なからぬ村民に「イタイイタイ病」の初期症状が見られるとともに、この村で「殻の柔らかい卵」や「骨軟化症の子牛」が生まれていることに言及している。

思的村の水田の水源となっている思的河の上流には、鉛と亜鉛の採掘鉱がある。1950年代から採掘が始まったが、カドミウムを含む廃水はそのまま思的河に流されたため、灌漑用水として水田に流入することになった。汚染された土地は、村周辺の330ヘクタール以上に及んだ。当時の廃水に含まれるカドミウムは、灌漑用水の基準値の194倍に達するとの研究結果も発表されている。専門家は、土壌が一度カドミウムに汚染されると、産出する農作物に含まれるカドミウム量は、長年経過しても減少しないと説明する。

中国における穀物の市場化が始まる2004年以前は、同村の米は「毒がある」との理由で政府による徴集を免除されていた。しかし、村民はその「毒」が何なのか、自身にどのような被害がもたらされるかは知らずに、何十年もその「毒米」を食べ続けていた。また、一部の村民は知っていても、汚染米を売って安全な米を買う際に生じる差額を負担できず、汚染米を食べ続けるしかなかった。「金があれば金でまかなうが、金がなければ命でまかなうしかない」と、ある村民は言う。

思的村は氷山の一角

思的村から約2000キロ離れた湖南省株洲市の新馬村では、2006年にカドミウム中毒で2人死亡、150人が慢性中毒となる事件が起きていた。後に同村の飲用水や地下水、土壌について調査したところ、土壌の重金属含有量が基準値をはるかに超えていたことが判明した。

当時、政府は新馬村産の米のカドミウム含有量を発表しなかったが、南京農業大学の潘根興教授とその調査グループは、事件から2年後の2008年に調査をおこない、同村産の米に国家基準の2,5倍にあたる0.53mg/kgのカドミウムが含まれているという調査結果を報告している。

潘教授は、2008年の新馬村での調査に前後して、メディアの報道等でカドミウム汚染が伝えられていた広東省大宝山地区、湖南省郴州地区、江西省大余地区などの米についてもサンプリング調査を実施した。その結果、これらの地区で産出した米も全てカドミウムに汚染されており、その量が基準値の2倍から5倍の0.4mg/kgから1.0mg/kgとなっていたことが判った。また、これらの省の市場に流通した米について、63回に及ぶ抜き取り調査を行ったところ、その6割以上がカドミウムに汚染されているという結果も得られた。

これに先立つ2007年、潘教授は全国範囲でも調査を進めていた。中国各地で市販されている91種の米についてサンプル調査した結果、その1割がカドミウム含有量の基準値を超えていたという。これは2002年に中国の農業省が行った米の安全性検査におけるカドミウム含有量と、ほぼ一致する結果となった。当時の検査結果によると、市場に流通する米の28.4%が鉛に汚染されており、次いでカドミウムによる汚染が10.3%と高い汚染率を示していた。

一方、中国科学院の陳同斌研究員の研究結果によると、中国の耕地面積を1.2億ヘクタールだとすると、重金属に汚染されている耕地は1200万ヘクタールで、そのうち、カドミウムに汚染された耕地は530万ヘクタールに上るという。

これらの土壌の汚染情報は稲作農民にはほとんど知らされていないため、数千万人にも及ぶ汚染地域の稲作農民が、自家米を食べることで、汚染の最大の被害者となっている。また中国では、汚染された土地における栽培規定がほとんどないため、思的村のような重度の汚染地域でも依然として米作が行われている。

更に恐ろしいことは、現在、米の流通は自由であるため、汚染米生産地以外の都市や地域の住民も汚染米を口にする危険に曝されていることである。流通過程における検査でカドミウム含有量の超過等が発覚し、販売が止められることは極めて稀である。

また近年では、汚染地域の農民の中には経済的に余裕のある農民も出てきており、健康についての意識も以前に比べて高まっている。それらの農民は、汚染米を自分で消費せず都市部の市場に出して、自分は安全な米を買おうとする傾向が強くなっているため、都市部の住民が重金属による健康被害に遭う危険性は日増しに高まっている、と陳研究員は指摘する。

2006年に、湖南省湘潭市で湘江の水を飲用する500人を対象に尿検査が行われた。そのうち3割の人は尿中のカドミウム量が安全値を超えており、1割は治療が必要という驚くべき結果が出た。カドミウムの摂取元は湘江の水のほか、湘潭の市場で販売されているカドミウム汚染米の可能性も否定できないと専門家は分析する。

カドミウムだけではない

中国産米に含まれる汚染物質は、カドミウムに止まらない。中国では、日本の水俣病の原因となったメチル水銀の主な摂取ルートは、魚介類ではなく、米であるとされる。浙江大学の張俊会氏が博士論文作成のため2009年に調査したところ、浙江省台州にある9つの電子製品解体で長い歴史をもつ村の水田のうち、7つの地区の土壌からカドミウムや銅、亜鉛等による複合汚染の存在が判明した。

また、中国科学院地理科学・資源研究所の李永華氏が率いるチームが2008年に行った調査研究によれば、湖南省湘西にある鉛・亜鉛の鉱山地区から産出する米は、鉛やヒ素による汚染が深刻だという。

食物汚染の連鎖は、すでに長期間にわたって続いている。中国の急速な工業化の過程で各地で進められた鉱石採掘は、化合物の形として安定的に存在していたカドミウム、ヒ素、水銀などの有害な重金属を自然界に解き放ってしまった。これらの重金属が今、水や空気を通じて中国の広範囲の土地を汚染し、農作物に含有されて、確実に人体へ入っていく。

中国では将来、農産物の安全性の問題において、従来の農薬汚染に代わって、重金属による汚染が最も重大な問題となることは、多くの専門家が警告している。

(翻訳編集・坂本、張凛音)
関連記事
「孔子学院?新華社?こんなものはもう退屈だろう。中国が本当に世界的なソフトパワー拡大には、モバイルゲームに焦点を当てるべきだ」中国国内メディアは最近、100億米ドル規模に達している中国ゲームの影響力の高まりに自信を見せている。当局は、ゲームコンテンツを通じて中国文化の浸透工作や、親共産主義人物の人気獲得を促進したりしている。
日本料理の「五味五色」が生む健康の秘密。陰陽五行に基づく養生観が、日本人の長寿とバランスの取れた食文化を支えています。
2023年5月25日に掲載した記事を再掲載 若者を中心に検挙者数が急増する「大麻」(マリファナ)。近日、カナダ […]
中国共産党が7月に反スパイ法を改正し、邦人の拘束が相次ぐなか、外務省が発表する渡航危険レベルは「ゼロ」のままだ。外交関係者は邦人の安全をどのように見ているのか。長年中国に携わってきたベテランの元外交官から話を伺った。
日中戦争の勝利は中華民国の歴史的功績であるが、これは連合国の支援を受けた辛勝であった。中華民国は単独で日本に勝利したのではなく、第二次世界大戦における連合国の一員として戦ったのである。このため、ソ連は中国で大きな利益を得、中共を支援して成長させた。これが1949年の中共建国の基礎となった。