この世で一番大切なことは?

【大紀元日本1月5日】その昔、多くの参拝者で賑わう円音寺という寺があった。この寺の正殿の梁に、一匹のクモが何千年も住みついていた。お寺の仏光を浴びながらお経を聞くうちに、いつしかクモは仏性を身に付けていた。お釈迦さまが円音寺を訪れた時、梁にいるクモを目にすると、「この世で一番大切なことは何であろうか」と聞いた。クモは「『得られないこと』と『すでに失われてしまったこと』です」と答えた。それを聞いたお釈迦さまは頭をふり、寺を後にした。

千年の後、一滴の清らかな甘露が風に乗ってクモの巣に落ちた。クモは毎日、愛おしく甘露を見つめながら幸せな歳月を過ごした。

ある日、甘露は突風が吹いて、飛ばされてしまった。クモの心は空っぽになり、寂しくなり、悲しみに浸った。クモは甘露を思いだしては、千年も恋いこがれた。

千年の後、お釈迦さまは再度、寺を訪れてクモに同じ質問をした。クモの答えは、以前と変わらなかった。「ならば、君を人間の世界に行かせてみよう」。お釈迦さまはクモを悟らせるために、人間に生まれ変わらせた。クモは女の子に生まれ変わり、「蛛児」と名付けられた。蛛児は16歳になり、聡明で美しい女性に成長した。

ある日、皇帝は状元(古代中国で、進士の試験に首席で合格した者)である甘鹿のために、伴侶を選ぶ宴を開いた。多くの名家の子女たちが招かれ、蛛児と皇帝の娘である長風姫もその中にいた。見栄えがよく、才能溢れる甘鹿に出会い、必ず自分が結婚できると信じていた。蛛児は、お釈迦さまが彼女のために結んだ縁であると信じていたからだ。数日後、皇帝は長風姫と甘鹿を、そして蛛児を皇太子である芝草と婚約させると発表した。驚いた蛛児はお釈迦さまが裏切ったと不満をこぼし、絶食して皇帝の命令に逆らった。

蛛児には、どうしてお釈迦さまがこのように按配したのか納得できなかった。何日間も食事を取らなかった蛛児は衰弱し、虫の息だった。最後に、蛛児の前にお釈迦さまが現れた。蛛児はなぜこのように按配されたのかを尋ねた。お釈迦さまは、「甘露(甘鹿)は風(長風姫)が連れてきて、最後も風が連れて行った。甘露はお前の人生の中でのひとつの出来事であり、甘露は長風姫の運命の人である」。蛛児はまだ納得できず、芝草のことを聞いてみた。「芝草は当時、円音寺の大門の前に生えていた草であり、芝草はお前を3千年も守り、愛していた。しかし、お前は下にいる芝草に一度も気付くことはなかった」。それから、お釈迦さまは再び、蛛児に同じ質問をした。蛛児は少し考えてから微笑を浮かべて答えた。「世の中で最も大切なことは、目の前にある幸福を大切にすることです」

(翻訳編集・李頁)