【大紀元日本7月9日】道徳と教養が重んじられていた古代中国の頃、「修身斉家治国平天下(まず自分の行いを正しくし、次に家庭を整え、国を治めて天下を平らかにする)」という教えがあった。その中で最も大切な素養は「誠実さ」であり、これが基本的な徳であるとされていた。
孔子は弟子たちに言った。「知之為知之、不知為不知(知っているのなら知っていると、知らないのなら知らないと正直に話す、これが真の知である)」。また、「君子耻其言而过其行(何をするにも言動が一致しなければならない)」と説いた。
また、誠実に関するこんな逸話もある。北宋の范仲淹は睢陽で勉学をしていた頃、一人の呪術師と知り合った。ある日、重い病気にかかった呪術師は范仲淹を呼んで言った。「ここに錬金術の秘法がある。しかし、私の息子はまだ幼いために錬金術を伝授することができない。あなたに錬金術の秘法を託そう」。彼はそう言い残すと、秘法と一緒に一斤の白金を封筒に入れ、范仲淹に託した後、亡くなった。
数年後、諌臣をしていた范仲淹は呪術師の息子を探し出して言った。「あなたの父上は不思議な錬金術を使うことが出来ました。父上は亡くなられた時、あなたがまだ幼かったので錬金術の秘法を私に預けられたのです。あなたはもう立派な青年に成長されたので、これを返す時が来ました」。范仲淹は秘法と白金が入っている封筒を呪術師の息子に渡した。密封された封筒の上にある記号は当時のままで、一度も開けられた様子はなかったという。
その後、范仲淹の息子・范純任は父の志を受け継ぎ、洛陽で官吏をしていた。范純任は人々に誠実に対応し、その土地の治安は良く、盗難もなかった。
ある日、一人の老人が座っていると、知人がやってきて言った。「あなたの家の黄色い牛が盗まれました」。しかし、老人は無言のまま動こうともしない。しばらくすると、また他の人が、あなたの牛が盗まれたと告げに来た。すると、老人は冷静に答えた。「探さなくても良い、きっと誰かが悪ふざけをして隠したのだろう」
不思議に思った通りすがりの村人たちが老人に尋ねた。「あなたの家の牛が盗まれたと何度も知らせを受けているのに、なぜ何もしないのですか?」老人は笑みを浮かべながら、「范様がここにおられるのに、誰が泥棒なんかになるものか。決して有り得ないことだよ」と話した。しばらくすると、老人の予想通り牛は戻ってきたという。
天地は万物を生み出す中で常に真(まこと)であって偽りがなく、自強不息(絶えず自分を向上させようと努力すること)の特徴がある。古人はその特徴を「誠」と呼び、人間の言動もそうあるべきだと考えた。古人曰く、「誠なる者は、天の道なり。これを誠にする者は、人の道なり」。正直で誠実な古人の道徳心を見習うことが、社会安定への近道なのかもしれない。
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