チベットの光 (67) 世の中で最も幸福な人とは

【大紀元日本9月27日】ミラレパは簡単に、これまで自分がやってきた修行について彼に話した。彼は聴き終わった後に嘆いた。「君のような修行方法は、実際稀に見るものだし、難しいことだよ。どうだい、俺たちと一緒に飯でも食わないかい」

 山の反対側にいた数人の猟師もやってきて、一緒に食事を終えた後、その中の一人がミラレパの話を聴いて大声で話し始めた。

 「いやぁ、旦那!あんたのような苦行をしたって、その力を世間の事に使ってもらったら、きっと獅子のような駿馬に乗って、家内に家畜と召使が多くいる、王侯貴族のような生活が送れるに違いないよ。そうでもなかったら、少なくとも、何か商売でもして自活することさ、そうすりゃもっとましな生活を送れる。それでもまだ駄目なら、誰かの使用人にでもなることだ。少なくとも衣食もまだましになる。無論どうあって、どんなに運が悪くとも、今のあんたよりましだ。以前のあんたはどうしたらいいのか分からなかったのだろうが、今俺がはっきりと教えてやる。俺の話を参考にすれば、絶対に間違いはないから」

 「黄色い嘴が、出鱈目をさえずるな!」、その中の年配者が遮った。「この方は見たところ、本当の修行者だ。私たち世俗人の話に沿うと思うのか。青二才が口を慎め」

 「あなたたちは、私の見てくれだけで私のことを悲惨に思っているのでしょう」、ミラレパが答えた。「私は実際、世間で最も幸福な人で、私より幸せな人を見つけるのは困難です」

 ミラレパは猟師たちと別れた後、直接プリンの地に向かった。彼は寄普の太陽窟を選び、そこで数か月修行すると、その功力はますます伸びた。プリンの住民は、よく彼に食物を差し入れに来た。ある時など、特別に彼に面会に来る人まで現れたので、だんだんと修行の邪魔になってきた。彼は、師父の指示通り、誰もいない深山で修行したいと思うようになっていた。

 このとき、妹のプダはもらってきたものを羊毛に換え、その羊毛で毛布を織り、ミラレパに服を作ってあげようとしていた。しかし、彼女が毛布を持ってフマパイの洞窟を訪れたとき、彼はすでに去った後だった。彼女は兄の消息を聴いてまわったが、まもなくある人が彼女に言った。

 「あんたの言っている人が誰だか知らないけど、ここに以前いた行者さんなら知っているよ。イラクサを食う芋虫みたいな人なら、南の方に行ったよ」

 プダはそれを聴いて、兄だとすぐに分かった。彼女がプリンの地に着くと、ちょうどバリ釈師が盛大な法会を開いていた。彼は、何段もの座布団の上で法座につき、上には煌びやかな幢(※1)と大傘がさされ、大傘の端には色とりどりの帯が下がり、その中で悠々としていて華麗であった。法会では、彼は上座で酒や茶を飲み、下座では弟子の小ラマたちが法螺貝を吹き、忙しい一団を形成していた。法会に参加している人たちは非常に多く、それは密集しているかのようであり、見るからに熱気をおびた盛会であった。

 プダはこのような盛大な場面を目にすると、憧れの気持ちを禁じえず、こう思った。「世間の佛を学ぶ大法師と言われる人たちは、このような盛大な場で、多くの人たちの尊敬と敬愛を受けていて、さらには小ラマまで従えている。お兄さんがやっている仏法と世間の人たちのでは大違いだわ。自分を苛めること以外、何もいいところはないし、世間の物笑いだし、家族もメンツがなくなるわ。今度お兄さんに会ったら、バリ・ラマのことを話してみよう。こういったやり方もあるんだって、考えてもらわないと。バリ・ラマの弟子にでもなったらいいのに」

 (※1)幢…大旗竿

 (続く)
 

(翻訳編集・武蔵)