平成元年、歌舞伎役者・坂東玉三郎のもとに一通の手紙が届きました。
八千代座は明治43年に作られた芝居小屋で、伝統的な建築様式で建てられ、長らく市民の憩いの場として賑わいました。しかし昭和40年代に入ると娯楽も多様化し少しずつ客足が遠のき、閉館状態が続いたため建物も老朽化していきました。しかし往時を懐かしむ お年寄りが昭和61年より「瓦一枚」運動を起こし資金を集め、五万枚にもおよぶ屋根瓦の修復を行ったのです。この運動に賛同者が増え、さまざまな活動が行われ、昭和63年には国指定重要文化財となりました。
玉三郎に届いた手紙には老朽化した八千代座の写真が添えられ、復興への熱い思いが語られていました。玉三郎は八千代座を訪れ復興への協力を約束したのです。市民の熱意により坂東玉三郎公演が実現したのです。風情のある八千代座での玉三郎公演は観客を魅了しました。平成2年から始まった坂東玉三郎公演は八千代座の存在を全国に知らしめ、復興への大きな追い風となったのです。公演は、ほぼ毎年行われ平成27年で25周年を迎え、公演回数も250回を超えました。玉三郎公演のチケットは購入希望者が多すぎて、抽選でしか入手できません。廃館寸前だった八千代座の入場券がプラチナチケットに変わったのです。
玉三郎以外の公演も数多く行われ八千代座も賑わいを取り戻しました。活気を取り戻すことで八千代座自身も設備を充実し平成の大改修を行うまでになりました。また玉三郎も平成24年に人間国宝に認定されました。
たった一通の手紙から始まった八千代座の物語は様々なドラマを生み、そして次の世代への素敵な贈り物となったのです。
(文・佐吉)
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