著名ジャーナリストに渡航禁止命令 授賞式出席を阻むため=中国
1958年から1961年の3年間にわたって中国で展開された「大躍進政策」。その失策によって史上最悪の大飢饉が中国全土を襲い、数千万人の餓死者を出した。この大躍進について綿密に取材を重ね、当時の様子を詳細に掘り起こしたルポタージュ『墓碑』(邦題『毛沢東大躍進秘録』文藝春秋社)の著者で元ジャーナリスト、楊継縄氏が当局から出国を禁止された。このたび同氏に授与された賞の授与式への出席を阻むための措置とみられる。
米ハーバード大学ニーマンジャーナリズム財団では毎年、「良心的かつ誠実な報道をした個人、グループまたは組織」に対して、ルイス・M・リオン賞を授与しており、今年は恐怖に屈しない報道姿勢を貫いたとして楊氏が受賞したが、同氏が授賞式に出席できるめどはたっていない。ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して同氏自身が、以前の勤務先でもある中国最大の政府系報道機関・新華社通信から、受賞のための出国を禁止されたと明かしている。
『墓碑』は、同氏が大躍進政策に翻弄された人々の証言を集め、15年の歳月をかけて完成したドキュメンタリー。大躍進政策とは当時の最高指導者、毛沢東が挙国一致で行った工業・農業の大増産計画で、数年間で欧米諸国を追い越すことを想定していたが、結果は中国経済の大混乱、土地の荒廃などを引き起こして大失敗に終わり、推定3600万人もの餓死者を出した。
中国政府はこれを「三年自然災害」と名付け、大飢饉は当時3年間続いた自然災害による不作が原因だとして、政策の失敗が招いた人災であることを全く認めていない。
この本は中国では発禁処分となっているため2008年に香港で出版され、これまでに数多くの国際賞を受賞しているが、著者が受賞目的の渡航を禁止されたのは初めてのこと。
ニーマンジャーナリズム財団は世界のジャーナリズムの向上とリーダーの育成を活動理念に掲げており、ホームページで楊氏の受賞について「彼の仕事は、多くの障害に直面しながらも取材を続けている全ての世界的なジャーナリストの努力に対して訴えかけるものだ」とコメントし、「事件の真実が、まるで法医学報告書のように詳細に記録されている」と本書を賞した。
今年75歳の楊氏は長年にわたり中国国営新華社通信の記者を務め、01年に退職してからは、中国の政治・経済改革問題を重点的に報道する複数の雑誌で、編集委員や副社長などを務めたが、15年に当局の圧力で引退した。以後、報道の第一線からは退いている。
15年にスウェーデンのスティーグ・ラーソン賞を受賞した際、同氏は受賞スピーチで「人類の悲劇ともいえるこの事件が起こってから50年が過ぎてもなお真実が隠されていることに、深い悲しみを感じる」と自身の想いを明かしている。
この件について、ニューヨーク・タイムズ紙を始めとする海外メディア各社が新華社通信に対し電話で問い合わせたが、いずれも電話が通じないという。
(翻訳編集・桜井信一)