心の琴線

「あなたが私に教えてくれた」ある教師と生徒の絆

9月の新学期が始まった最初の日、5年生に進級した子どもたちに向かってトンプソン先生が語りかけた。「私にとって、あなたたち全員がかけがえのない存在です」。だがそれは、目の前に座っているテディ・ストッダードのことも指しているとは言えなかった。テディはおよそ、人から好かれるようなタイプではない。クラスメイトの誰にも心を開かず、いつも不潔な身なりで、シャワーだって浴びているのかもわからない。成績も振るわず、トンプソン先生は今日もまた、テディの答案用紙に大きなバツを付けた。

ほどなくして学校から、子どもたちのこれまでの記録に目を通すようにという指示がきた。ずるずると後回しにしてきたテディの資料にようやく手を伸ばした先生は、自分の目を疑った。

1年生の記録は、「テディはとても賢くて、いつも朗らかに笑っている。宿題もきちんとやり、礼儀正しく、周囲を楽しませている」

2年生の記録は、「とても優秀で、クラスメイトからも非常に好かれている。ただ、母親が重篤な病気を患っていることで非常につらい思いをしている。家庭生活にも支障がでているようだ」

3年生の記録には、「母親が亡くなってしまい、心に大きなダメージを負っている。本人は何とか頑張ろうとしているが、父親の責任感が希薄なため、何らかの措置を講じなければ家庭環境が彼に悪影響を及ぼす可能性がある」

4年生の記録には、「誰にも心を開かず、勉強にも興味がない。友達はいない。よく授業で居眠りをしている」

いったい私は今まで、彼の何を見てきたのだろう。トンプソン先生は自分の浅はかな考えを心から恥じた。

クリスマスがやってきた。子供たちから次々と手渡される色とりどりのプレゼントが、トンプソン先生の心をますます重くした。そんな中、テディの番がやってきた。

彼が差し出したプレゼントは粗末な買い物袋で包まれていた。ごわごわとしたクラフト紙をようやく開くと、中から出てきたのは水晶のブレスレットと香水の小瓶だった。水晶はところどころ外れて無くなっており、香水の方は中身が四分の一ほど残っているだけだった。それを見た誰かが笑い出した。トンプソン先生は彼らを制すると、なんてきれいなブレスレット、と嬉しそうに声を上げて身に着けた。そして、香水の瓶を開けて腕にすり込んだ。

その日の放課後、テディはトンプソン先生のところへやってきた。「先生、今日の先生は僕のお母さんと同じ匂いがする」。トンプソン先生はテディの後ろ姿を見送りながら、涙をこぼした。

その日を境に、トンプソン先生は変わった。勉強に気を配るだけでなく、より子供たち自身のことを注意深く見守るようになった。テディのことは、特に気にかけた。すると、テディの方にも変化が現れ、彼の中からエネルギーが沸き上がってくるようになった。

5年生の終わりになると、テディはクラス一の優等生になっていた。

一年後、トンプソン先生はドアの隙間に挟まれた1枚の紙を見つけた。「先生は、僕が出会った中で一番素晴らしい先生です」。テディからの手紙だった。

六年が過ぎた。先生はまた手紙を受け取った。「学年3位の成績で高校を卒業しました。やっぱり先生が僕にとって最高の先生です」

さらに何年か過ぎ、またテディの手紙を受け取った。大学を卒業した後も、そのまま残って研究を続けているという。そしてやはり、あなたが僕の生涯で出会った最高の先生だとも書かれていた。手紙の最後には「医学博士、ストッダード」とサインが記されていた。

その年の春、テディから結婚式の招待状が届いた。新郎の母親の席に座ってほしいと書かれている。

結婚式に参列したトンプソン先生は、テディの母親の香水の香りを漂わせ、腕にはあの水晶のブレスレットが揺れていた。二人がしっかりと抱き合うと、テディがトンプソン先生の耳元でささやいた。「先生、本当にありがとう。先生のお陰で、僕は自分の道を見つけることができたのです」

トンプソン先生の胸に熱いものがこみ上げてきた。「テディ、それは違うわ。教師であることの意味を、あなたが私に教えてくれたのよ」

(翻訳編集・桜井信一/単馨)

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