中国の「海上保安法改訂」で南シナ海情勢はどうなる?

中国共産党は現在「海上交通安全法」の制定を進めている。同法の草案では外国籍潜水艦が領海を通過するときは中国政府の許可を得て、海面まで上昇し国旗を掲揚しなければならない等の規定を定めている。改正案に盛り込まれたこれらの条文は、中国共産党が南シナ海における態度をさらに強硬なものにするだろう。そうなれば近隣諸国との摩擦が増えるのみならず、「航行の自由」作戦を行う米軍との対立をより深める恐れもある。

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中共国務院法制弁公室は19日、海上交通安全法規の改正案を発表し、民間の有識者に意見を求めた。現行の海上交通安全法規は23年前に施行されたもので、その一部の規定を時代に合わせるのが主要な目的だ。船員の権利に関する条項や海難捜査・救助に関する条項は当然のこと、海洋権利の保障に関する条項や外国籍艦船の扱いに関する条項も見直されている。これは中国共産党(中共)が国内法を盾に南シナ海での活動を更に活発化することを意味する。南シナ海では昨年12月に米軍の無人探査機が中共海軍に捕獲される事件が発生し、2月10日には米中両国の航空機がニアミスを起こしたばかりだ。南シナ海で対峙する米中両軍にとって、この法案は両者の緊張を増すのではないかと危惧する声もある。

 法案の実施はどのような影響を及ぼすか

海上交通安全法案が成立すれば、南シナ海での緊張度はますます上昇するだろう。南シナ海は重要な海上航路だけでなく、重要な漁場もであり、また海底鉱物資源も豊富だ。中共は南シナ海のほぼ全域を排他的水域だと主張し、昨年7月に国際海洋裁判所の判決の効力をも否認している。

もう一つの問題は、周辺諸国が公海と認識している海域を、中共は領海と主張していることだ。「国連海洋法条約」によれば、沿岸12カイリ以内は沿岸国の領海とし、外国籍の船舶は「無害通航」することができるものの、沿岸国は法律で規定を設け、領海内に適用することができる。中共が領海を勝手に「拡大」し「法執行」しようものなら、他国の権益が著しく妨げられる結果となろう。

領海から更に12カイリまでの範囲は接続水域と呼ばれ、領有国は接続水域でも一定の主権を行使できる。接続水域の外部は200カイリに及ぶ排他的経済水域EEZ)であり、沿岸国はその水中及び海底の資源を独占的に利用できることが国際法で定められている。他国の船舶は自由に航行できるとするのが通説だが、中共は、排他的経済水域では他国の軍艦の通行を制限できると解釈する。したがって、法案が成立すれば中共は外国の潜水艦等が南シナ海で航行することを禁止する可能性があると見られている。中国本土系メディアによると、本法案は2020年をめどに実施される。

 法案はすぐに実施されるのか

中国共産党がすぐに法案の内容を実行する可能性は高くない。というのは、2013年に中共が防空識別圏を設定した時のように、実際にはから脅しに近いと言えなくもない。しかし中共がこのような行動を取ることで、当該地域での存在感を強めていることも否定できない。

今回の法案も周辺諸国に対するから脅しであるかもしれないが、外国船の航行を妨害する厄介な根拠として利用されるのも時間の問題だろう。

(文亮)

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