中国主導の経済サミット「一帯一路」が北京で5月15日、16日に開かれた。円卓会議に参加している(左から)ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の習近平国家主席、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領(LINTAO ZHANG/AFP/Getty Images)

「一帯一路」サミット閉幕、各国の思惑相違、投資の透明性、人権など課題残る(1)

中国当局が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」国際協力サミットは15日、2日間の日程を終え閉幕した。世界29カ国の首脳や政府関係者などの約1500人がサミットに参加した。

中国政府系メディアは閉幕後の報道で、「大きな成果があった」と大いに報じているが、しかし実際に多くの国は「一帯一路」に懸念している。

今回のサミットでは以下6つの重要なポイントがある。

 1.欧州各国が共同声明の署名を拒否

AFP通信によると、サミットに参加したフランス、ドイツ、イギリス、ギリシアなどの欧州各国は、共同声明に各国が重要視する投資の公正さや透明度、社会保障、環境保護などの内容が盛り込まれていないとして、署名を拒否した。

欧米メディアは、中国当局は同経済圏構想を通じて影響力を高め、世界的な覇権的地位を手に入れようとしていると懸念した。

習近平国家主席は14日の演説では、中国が主導する経済貿易回廊は「既存のものへの対抗ではない」とし、各国と「戦略のリンクと相互補完を図るものだ」と強調し、各国の懸念を払しょくしようとした。

 2.トランプ米大統領が代表団を派遣

米国から、国家安全保障(NSC)のアジア政策を担当するマシュー・ポッティンジャー上級部長が代表団を率いて同サミットに出席した。しかし、ポッティンジャー氏は開幕式や、ハイレベルの全体会議で演説を行っておらず、15日の円卓会議にも参加しなかった。

ロイター通信によると、ポッティンジャー氏はサミットにおいて、米国は中国が同構想の一環としてインフラ整備への努力を歓迎し、国際インフラ建設の経験を豊富に持つ米国企業なら、価値の高いサービスを提供できると述べた。

ポッティンジャー氏は、この構想を成功させていくために、プロジェクトの評定や融資、建設、維持を着実にやり遂げなければならない他に、政府当局のカバナンスの透明性も非常に重要だと強調した。

トランプ大統領は、4月米中首脳会談以降、米国に友好的な姿勢を示してきた習近平主席の顔を立てるために、代表団を派遣したとみられる。米トランプ政権は依然として、米国と対等関係を目指し影響力を高めようとする中国の「一帯一路」に警戒している。

 3.「北極海航路」を「一帯一路」とのリンクを狙うロシア

円卓でのセッションに参加したロシアのプーチン大統領(LINTAO ZHANG/AFP/Getty Images)
 

ロシアのプーチン大統領は初日となる15日サミット開幕後、各メディアに対して、ロシアが「北極海航路」戦略を「一帯一路」とリンクすることを望むと示した。

北極海航路とは、ユーラシア大陸北方の北極海を通って大西洋側と太平洋側を結ぶ航路で、また欧州とアジアを結ぶ最短航路のうちの一つでもある。欧州とアジアを結ぶ現行のスエズ運河などの航路と比べて航海距離が短く、流通コストの低減につなぐため、近年注目されている。

同海航路と「一帯一路」とリンクすれば、関係国から形成される経済圏がさらに拡大され、ロシアはより多くの恩恵を得られる。

ロシアは今年3月に開催した「国際北極フォーラム」において、中国に対して北極海航路とその付近のインフラ整備に投資するようと呼びかけた。また、ロシアは同海航路の主要港とシベリア鉄道を結ぶ鉄道の建設についても協力を求めた。

ロシアは5月9日に行われた軍事パレードにおいて、北極圏に展開する部隊が登場し、その部隊のために開発された地対空ミサイルシステム「トール」や「パンツィリ」の北極仕様などの軍事装備を披露した。当局は、国際社会に北極海航路における完全支配をアピールするのが狙いとみられる。

中国の国有企業、中鉄二院工程集団が2015年6月末に、ロシア首都モスクワとタタルスタン共和国首都のカザンを結ぶ高速鉄道の建設プロジェクトに落札した。中国側が主な技術と資金を提供すると報道されたが、しかしロシアは資金担保の設定や、乗客が見込めない場合の損失をロシアが負担するとの中国側からの要求に反対したため、同プロジェクトはいまだに本格的に進められていない。今回のサミットでも、ロシアと中国の両首脳は同プロジェクトについて全く言及しなかった。

英紙「フィナンシャルタイムズ」によると、一部のロシア政府関係者は、中国の「一帯一路」構想では、ロシアの経済利益や政治的影響力を脅かす可能性があるとしている。構想には旧ソ連の国も多く含まれており、それらの国はロシアにとって、欧州とアジアを結ぶ重要な経済圏であるからだ。

(つづく)

 (翻訳編集・張哲)

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