焦点:米朝会談でも非核化は視界不良、「抑止力強化」迫られる日本

[東京 9日 ロイター] – 米国と北朝鮮が首脳会談に向けて動き出したものの、日本が目指す北の非核化というゴールへの道筋はまだ見えない。非核化ではなく開発凍結で終われば、日本に届く核ミサイルは温存されたまま。北が会談で時間を稼ぎ、その間に米国まで届く核ミサイルを完成させる可能性もある。どちらに転んでも、日本は自国の抑止力強化の検討を迫られる。

トランプ米大統領との電話会談を終えた安倍晋三首相は9日朝、北朝鮮の非核化に向け日米が一致して圧力をかけ続ける方針を確認したと強調。「この日米の確固たる立場は決して揺らぐことはない」と語った。

しかし、北朝鮮が30年以上を費やしてきた核開発の放棄には、大きな壁が立ちはだかる。「北朝鮮が何十年も国富を投入してきたものを捨てることになる。当然、その分の支払いを求めてくるだろう」と、外交問題に詳しい日本の与党議員は指摘する。

また、たとえ北朝鮮が核査察を受け入れたとしても、すべてを公開したかどうかを完全に検証する術はない。「米朝は結局折り合えず、その間に北朝鮮は核ミサイルを完成させ、交渉力を強める。時間は北朝鮮に味方する」と、同議員は言う。

テロリストなどに核が渡ることを恐れ核不拡散条約(NPT)を堅持する米国が、核開発凍結という中途半端な合意を北朝鮮とすることはないというのが、日本政府関係者の共通した見方だ。

しかし、国際政治が専門の拓殖大学の川上高司教授は、米国まで届く大陸間弾道弾(ICBM)の開発中止が実現できるシナリオが、最も可能性が高いと予想する。「非核化まで圧力継続を主張する日本は、はしごを外されるかもしれない」と、同教授は語る。

米国は北朝鮮の核ミサイルの圏外となるが、日本は危険にさらされたままとなる。「金正恩(北朝鮮労働党委員長)は強い力を得ることになる」と、多摩大学のブラッド・グロッサーマン客員教授は言う。

いずれのシナリオでも、日本は抑止力の強化が必要になると専門家は指摘する。「米国の核を共有するニュークリア・シェアリングを含め、米国に核抑止力の強化を求めざるをえなくなる」と、拓殖大学の川上教授は言う。先の与党議員も「米国の原子力潜水艦を日本の近くに置いてもらうなど、米国の先制攻撃能力の強化に向けて、交渉する必要が出てくる」と話す。

実業家出身のトランプ大統領の外交手腕は未知数だ。ジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表など、経験ある外交官も米政府から流出し続けている。

「われわれは何度となく(北朝鮮との)交渉をしてきたが、トランプ大統領はその経験がない」と、日本の元外交官は言う。「そこが不安だ。最初の会談は仕方ないとして、2回目を開いて実のある結果がなければ、大失敗ということになる」と同氏は話す。

(久保信博、リンダ・シーグ 編集:田巻一彦)

 3月9日、米国と北朝鮮が首脳会談に向けて動き出したものの、日本が目指す北の非核化というゴールへの道筋はまだ見えない。写真は1月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung Hoon)

 3月9日、米国と北朝鮮が首脳会談に向けて動き出したものの、日本が目指す北の非核化というゴールへの道筋はまだ見えない。写真は1月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung Hoon)
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