トランプ米大統領は5日ツイッターで、中国製品への制裁関税を現行の10%から25%へ引き上げると発表した。写真は中国上海の洋山深水港(JOHANNES EISELE/AFP/Getty Images)

米、対中制裁関税を25%に引き上げ 中国側が約束を反故

合意を目指して最終段階にあるとみられていた米中通商協議は急転直下した。トランプ米大統領は5日ツイッターで、2000億ドル(約22兆1228億円)相当の中国製品に対する制裁関税を、現在の10%から25%へ引き上げると表明した。10日から実施。また、その他3250億ドル(約35兆9496億円)相当の中国製品に関しても、「近く」25%の制裁関税を課すと言及した。

大統領はツイッターで、米中通商協議について「進展があまりにも遅い。中国側が交渉のやり直しを企てている。ノーだ」と書きこんだ。中国側がこれまでの交渉で示した譲歩や約束を撤回しようとしていると示唆した。

再交渉

米中双方は4月30日から5月1日までの日程で、北京で10回目の閣僚級通商協議を行った。

香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト6日付は、米中通商協議に詳しい情報筋2人の話を引用して、10回目の通商協議で、米側が中国側により多くの譲歩を迫ったが、中国当局が断ったと報道した。

今回の協議について、ホワイトハウスは当時、米中双方が知的財産権侵害、技術の強制移転および検証可能の合意執行メカニズムで交渉したと発表した。

いっぽう、中国国営新華社通信はこの協議に関して簡潔に報道し、具体的な交渉内容に言及しなかった。また、「来週(5月9日から10日まで)米ワシントンで11回目の米中閣僚級通商協議を予定通りに行う」にとどまった。

専門家は、米中両国は知的財産権侵害などの事項に関して、隔たりが解消されていないと指摘した。

反故

ブルームバーグ6日付によると、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は同日記者団に対して、「先週の間に中国当局が貿易交渉で約束を撤回した」とし、「われわれにとって受け入れられない」と非難した。ライトハイザー氏とともに、記者団に語ったムニューシン米財務長官によると、中国側が先週末米政府に送った新たな合意草案では、交渉済みの内容について再協議を望んだとした。

また、ブルームバーグは情報筋の話として、10回目の通商協議で中国側は、貿易関連の法律改正という事項について反故(ほご)にしたと報じた。中国当局はこれまでの交渉で、強制技術移転を含む国内法の改正を米側にはっきりと表明したという。

報道によると、ライトハイザー米通商代表部代表は中国側の約束撤回に憤慨し、トランプ米大統領に報告した。これを受けて、大統領は5日のツイッターで対中追加関税の引き上げを発表した。

ライトハイザー代表は、米東部時間10日午前0時1分に中国製品への制裁関税引き上げを実施するとした。

最終警告

昨年、米中貿易戦がぼっ発してから、トランプ政権は今年1月1日に中国製品に対する制裁関税を10%から25%へ引き上げると計画していた。しかし、昨年12月1日、米中首脳会談が行われた後、米政府は、3月2日まで90日間の引き上げ猶予を中国側に与えると決めた。今年2月下旬での米中通商協議で生産的な進捗があったとして、米政府は中国への関税引き上げを再度見送った。

トランプ政権は当初、3月1日までに米中双方が合意することを希望していた。最近のトランプ大統領のツイッター投稿と米メディアの報道では、米政府は5月末までに合意を目指していることがうかがえる。

この一方で、中国当局は終始時間稼ぎの戦略を実行している。中国当局は、米側が要求する構造改革を実施し、市場を開放すれば、中国共産党政権が直ちに崩壊するのを心得ている。

トランプ政権の高官は、時間稼ぎする中国側を批判し始めている。ミック・マルバニー大統領首席補佐官代行は4月30日、ロサンゼルスで国際経済会議「ミルケン・グローバル・カンファレンス」に出席した際、米中通商協議は「永遠に続けるわけにはいかない」と述べた。また、同氏はトランプ大統領が貿易交渉の進捗(しんちょく)について不満を感じる場合、「いつでも立ち去る用意がある」と改めて強調した。

ムニューシン米財務長官は、4月末の訪中の前に、10回目と11回目の米中通商交渉の結果によって、「大統領に合意できたと報告するのか、それとも交渉が失敗したと報告するのかが分かる」と発言した。米側にとって、5月9日と10日の米中通商協議がタイムラインであることを示唆した。

トランプ大統領の今回の追加関税引き上げは、交渉で約束を撤回し信頼を失った中国当局に対する最終警告だとみられる。中国側が今までの約束を守らなければ、今後米国に輸入するすべての中国製品が25%の制裁関税を課される。結果として、中国経済の崩壊が現実味を帯びることになる。

米CNBC6日付によると、世界金融大手UBSのアナリスト2人は、米政府が全ての中国製品に対して25%の関税を課すと、「中国当局が対抗策として、全力で景気刺激策を打ち出しても、国内総生産(GDP)成長率を6%台に維持するのは難しくなる。人民元の対ドル為替レートは1ドル=7.2元台へと元安が一気に進むだろう」と話した。

アナリストは今後1年間で、中国のGDP成長率が1.6%から2%下落すると予測する。

米政府の対中制裁関税引き上げの発表を受けて、中国株式市場では6日、主要株価指数である上海総合は前営業日比で5.6%安と急落した。

中国問題専門家の横河氏は、「陰謀に長ける中国共産党政権は貿易戦でさまざまな手段を講じてきた。有言実行のトランプ大統領の前では、これらの手段は全く役に立たない」と指摘した。

いっぽう、米政府の関税引き上げ措置について、中国当局が声明を発表しておらず、政府系メディアも関連報道を行っていない。報道規制が敷かれているとみられる。中国共産党機関紙・人民日報は7日の1面トップの評論記事で、米国への直接批判を避けながら、中国経済が堅調であるとし、「外部からのチャレンジ」に対応できると主張した。

(翻訳編集・張哲)

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