ワシントンDC地下鉄狙う中国中車「スパイ列車」と米警戒

世界最大の鉄道車両メーカー、中国国有・中国中車(CRRC)は米国でのシェアを拡大させようとしている。米国下院の輸送・インフラ委員会は5月中旬に開いた公聴会で、同社製造の車両に使用される監視カメラなどを通じて、インフラ情報が中国側に漏洩する危険性を指摘した。

米首都ワシントンでは、2024年に運用開始を目指す新型車両の調達をめぐり、中国中車集団と韓国の現代ロテム、仏アルストムが競っている。契約規模は10億米ドルとされる。米紙ワシントン・ポストが伝える分析家たちの話では、中車集団の提示した価格は、他社に比べて数千万〜1億ドルも安い。

中国中車は近年、ボストンやシカゴ、ロサンゼルスの主要な鉄道車両契約を勝ち取った。安価な入札価格のほか、これらの都市が位置するマサチューセッツ州、イリノイ州、カリフォルニア州で車両組立工場の建設を約束したことも契約を後押しした。

中車集団は昨年のツイッター公式アカウントで、「このほどのジャマイカの輸出を含め、我が社は104の国と地域に車両を販売した。世界の列車生産量の83%が中車集団の製品だ。残りの17%の市場を征服するには、あとどのくらいかかるだろうか」と息巻いている。この投稿はすでに削除された。

米国議会下院は5月中旬、中車集団とのプロジェクトに連邦政府の予算の投入を禁止する決議案を提出した。今年4月、上院も類似の提案を出した。

運輸インフラ委員会のサム・グレイブス(Sam Graves、共和党)議員は、「中国は米国のインフラ市場に参入し、その目的は産業機密や知財権を集めるためだ。中国の経済スパイ活動は目に余るほどだった」と述べた。

リスクにさらされる地下鉄

一部の専門家によれば、中国中車のワシントンでの競争入札契約内容には、カメラによる映像監視、システム監視と診断、データ・インターフェース、自動列車制御システムが含まれる。

「サイバー攻撃に脆弱になるだろう」退役陸軍上級将校ジョン・アダムス氏は公聴会でこう述べた。「ワシントンには国防総省と国会議事堂がある。WMATA(ワシントン首都圏交通局)と契約した企業は、ワシントンの公共交通網のパートナーになるということだ」とし、米国の地下インフラの情報がリスクに晒されていると述べた。

アダムス氏は、防衛および防衛コンサルタント企業ガーディアン・シックスを運営する。アダムス氏によれば、最新鋭の人工知能と顔認証技術が使われている中国のAI監視カメラは、「乗客の行動や経路を追跡し、ターゲット発見の精度は高い。諜報担当は、内蔵WiFiシステムを使用して、ここからデータを抽出できる」。また、もし中国国有企業が入札すれば、同様の監視が米国内で行われる可能性もあると危機感を示した。

中国中車は、近い将来、貨物鉄道プロジェクトにも参入する可能性を示している。「貨物鉄道は、あらゆる軍事基地、都市、倉庫、港湾などを通過し、製品を海運へと繋げている。戦略的角度から注意を払うべきだ」とアダムス氏は述べた。

中国中車シカゴの広報担当は、同社が現在、米国内で貨物列車を製造する計画はなく、旅客運搬車両のみに注力していると述べた。

一部の専門家は、米国の公共交通機関は厳格に監督されており、スパイ活動の拠点にはならないと、中国中車に対する脅威論を払しょくしようとしている。

ワシントン拠点のシンクタンク・戦略国際問題研究所の科学技術政策代表ジェームス・ルイス氏は、車両製造メーカーがWiFi無線業者と協力しなければ、中国側のハッキングや遠隔操作などの危機には陥らないと述べた。

いっぽう、データ通信が膨大で高速処理を可能にする5GおよびIoT(ネットとモノが繋がる)社会の時代に入れば、リスクは増大するとの見方がある

米国オーバーン(Auburn)大学の通信インフラと情報安全の研究所代表フランク・シルフォ(Frank Cilluffo)氏は、5Gは国のライフラインと基幹インフラを結びつけるものだと述べた。「過ちを犯せば、ネットワークやインフラを脆弱にさせてしまう恐れがある」と述べた。

(翻訳編集・佐渡道世)

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