ファーウェイ、海底ケーブル事業撤退 中国共産党政府に近い企業に売却
中国の通信技術大手ファーウェイ(華為科技)は、光通信のための海底ケーブル事業を、中国共産党政府に近い国内企業に売却する。ファーウェイは、トランプ米政権による実質的な禁輸措置を受けて、コア事業以外の切り離しを進めている。
報道によると、江蘇省拠点の光通信ネットワーク企業・江蘇亨通光電は6月3日、上海証券取引所に華為海洋網絡の株51%の購入を届け出た。これにより、ファーウェイは海底ケーブル事業から撤退する。
華為海洋は2008年、香港でファーウェイと英国の海洋通信会社グローバル・マリン・システムとの合弁会社として設立。株式は、華為投資ホールディング(以下華為投資)が51%、グローバル・マリン・システムが49%となっている。
上海証券取引所が受けた報告によると、江蘇亨通光電は、華為投資が持つ華為海洋の全株式51%を購入し、子会社化する。金額や購入理由は明らかにされていない。
米国商務省は5月、米国企業との取引を制限するエンティティリストに、ファーウェイとその関連企業68社を追加した。このなかに、華為海洋の名はないが、華為投資はリスト入りしている。
中国の政治経済アナリスト秦鵬氏によると、ファーウェイの海底ケーブル事業の撤退は戦術的な動きだという。
秦氏は6月3日のツイッターの投稿で、コア事業である通信を保護し、これ以上米国のセキュリティ問題に対する追及を深化させないための措置だろうと書いた。
中国共産党政府は、ファーウェイが「中国国内の通信インフラと中国軍事力の鍵」であることから、次世代通信規格5Gの展開の保護には熱心だ、と秦氏は付け加えた。
世界の通信網に欠かせない海底ケーブル
海底ケーブルは、海底に敷く光ファイバー線の束であり、現在、世界に約380本ある。世界規模のインターネット、音声通話、データトラフィックの95%を伝送しており、地球規模のネットワーク網を支え、各国の経済、安全保障、国家インフラに欠かせない技術となっている。
ワシントンを拠点とする情報技術革新財団(ITIF)の4月の報告によると、華為海洋は、フランスのAlcatel-Lucent、米国のSubCom、日本のNECに次いで、市場シェア世界第4位。
同社公式サイトによると、アジアやアフリカで、90のインフラ計画に関わり、5万キロを超える海中ケーブルを設置した。2017年の利益は16.6億元。
同社最大のプロジェクトは、大西洋を横断する南米とアフリカを結ぶ6000キロの海中ケーブルの設置だ。
米コンサルティング会社のRWRアドバーサリー・グループによると、カメルーンとブラジルをつなぐ光海底ケーブル建設は、中国の国営通信プロバイダー・チャイナユニコム(中国聯合通信)をパートナーとして、国営・中国輸出入銀行の融資を受けている。
野心的な通信網の占有は、中国共産党政権が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」のひとつにある。アジア、アフリカ、欧州に関わる海底ケーブルや地上・衛星回線を「デジタル・シルクロード」と呼び、インフラ建設を進めている。
ファーウェイ事業を買った企業トップは人民大会代表
江蘇亨通光電は、江蘇省の通信大手・亨通集団の子会社で、光ファイバー製造会社。華為海洋と共同で、パキスタン、南アフリカ、ケニア、ソマリア、ジブチ、エジプト、フランスを結ぶ1万2000キロのケーブル設置工事を行っている。「平和のケーブル」と名付けられたこの共同計画は、2020年の第1四半期にサービスを開始する予定だという。
亨通集団は中国共産党と強い関係がある。同ウェブサイトによると、同社の共産党書記兼主席の崔根良氏は、第12回(2012ー2017年)および第13回(2018ー2023年)の全国人民会議代表。
2016年11月に江蘇省・南京で開催された共産党大会で、崔氏は「中国製造2025」や「一帯一路」など、中央政府の国家戦略方針に忠実に従うことを表明した。 江蘇亨通光電は、2018年の年間売上高が1000億元(約1兆6000億円)を超える国際的なハイテク企業だ。
米国のサイバーセキュリティ会社SquirrelWerkzの社長兼最高経営責任者(CEO)、ジェフリー・ジョンソン氏は2017年1月、連邦議会の公聴会に出席。華為海洋による野心的な海底ケーブル市場のシェア拡大をみて、中国共産党政府が、同社のケーブルを介して世界規模の通信妨害を行う可能性があると述べた。
「中国は、光海底ケーブル市場の支配権の獲得と、海底監視、指揮統制を国家的に支援している。これらのケーブル事業は、米海軍とその同盟国にとって重大な脅威となりうる」とジョンソン氏は述べた。
米ウォール・ストリート・ジャーナルは3月、米国の現役や元・安全保障当局者を取材した。ファーウェイが海底ケーブルの統制権を握れば、中国共産党はデータ操作や監視を許可する可能性があり、都合により特定地域のネットワークを遮断する場合もあると懸念を示した。
(編集・佐渡道世)