【紀元曙光】2020年3月5日
江戸落語「長屋の花見」は、もとは上方落語で「貧乏花見」といった。小欄の筆者がなじみ深いのは江戸東京のほうなので、ゆかいな長屋の連中と、上野の山へ花見に行こう。
▼面倒見のいい長屋の大家さんが、店子(たなこ)の面々を連れて花見にいく。皆その日暮らしの貧乏人ばかりなので、酒3升に、つまむ肴は、かまぼこに玉子焼きと、大家さんが大盤振る舞い。もちろん本物ではなく、酒の代わりに番茶、肴は白い大根の漬物に黄色い沢庵という代用品だが、そこは皆、持ち前の陽気さで大いに盛り上がる。
▼豊臣秀吉の醍醐の花見のように贅を尽くさなくても、庶民の花見は、それなりに楽しい。そうだ。それなりに、可能な範囲で、今年は楽しめばいいではないか。ウイルスは御免だが、花見そのものを止めることはあるまい。
▼ただ、例年のような、酔客や物見客がすさまじい人口密度になるのは避けよう。普段はきちんとしている日本人が、花見の無礼講であらわにする狂態は、外国人観光客にとってよほど興味深いものらしいが、それも今年は、見せてはならない。
▼昨日、東京都は、都立公園や都が管理する河川敷などでの花見について、レジャーシートなどを敷いて飲食する宴会を自粛するよう呼びかけた。今年は、確かに通常ではない。あと半月もすれば東京の桜が咲き始めるが、花見の不用心が原因で感染が広がったなどということは、我ら日本人の名誉にかけて、世界へ報じられてはならぬ。
▼とは言え、静かに、分かれて、上品に花見をすることは構うまい。自粛とは、工夫と小分けで代替できることが多い。
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