【紀元曙光】2020年4月27日
「稽古」という日本語が好きだ。
▼練習でもトレーニングでもない。「稽古」でなければ合わない道がある。剣道や柔道などの武道。日本舞踊、能、狂言、和楽器、さらには茶道や華道などの伝統的な芸能や文化も「稽古」であろう。そこから派生した「ピアノのお稽古」という言い方も日本らしくて響きがいい。
▼そこには厳格な師匠がいる。師の前に、顔をひきしめ背筋を伸ばした弟子がいる。弟子は師の教えを絶対のものとして守り、ひたすら稽古を重ねる。その全てが、修行や精進といった宗教語でも代替されるように、単なる技術の向上だけではない、非常に精神性の高いものになっている。
▼古(いにしえ)を稽(かんがみる)で稽古。そこには伝統文化に対する最高の敬意と、自身の真摯な態度がある。小欄の筆者は(自慢にもならないが)現代の新しい事物に全くついていけない古物の人間であるせいか、稽古を積んでプロになった人々を、ほとんど無条件に尊敬する。
▼昨日のテレビの『笑点』は、無観客で、落語の師匠方がソーシャル・ディスタンスをとって舞台に並んでいた。50年以上つづく番組始まって以来の、異様な光景だった。ともあれ、面白い噺で客を笑わせてくれる落語家さんたちも、すさまじい稽古の人である。
▼気がかりは大相撲。親方や関取にもウイルス感染者が出てしまった。5月の夏場所は、先場所のように無観客になるか。しかし力士にとって稽古は、勝敗だけでなく、けが防止という意味でも重要である。稽古不十分では、本場所で、けが人が続出するだろう。まさに稽古こそ命なのである。
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