【ショート・エッセイ】
優れる宝 子にしかめやも
万葉の歌人・山上憶良(やまのうえのおくら)は、官人としては地方官どまりで特に出世したわけではない。ただ憶良という人物がもつ温かみに、後世の私たちは大きな魅力を感じているようだ。
下級職の記録係であり、すでに40歳過ぎの若くはない憶良は、大宝2年(702年)の第七次遣唐使の一員として唐土に渡った。唐のすぐれた学問や文化を吸収し、2年後に無事帰国しているのだが、当時の危険な航海を想像すれば、無事に帰国した憶良の運の強さに私たちはもっと驚いてよい。
しかし、唐帰りで箔をつけた青年官僚とは異なり、憶良はいたって淡白であった。おそらく、出世昇進という官僚世界のリアリズムの中に身を置くことは憶良の本意ではなく、その血肉に溶け込んだ儒教や仏教の倫理観からほとばしる歌のほうにこそ自身の本当の姿が投影できたからではないか。
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