【紀元曙光】2020年8月11日
(前稿より続く)もちろん、忠臣蔵の義士が「公」としたのは、亡君である浅野公への忠義であり、それ以上の広がりはない。
▼むしろ赤穂浪士は、「ご公儀」である徳川幕府の国政を、「先のお裁きに、不公正あり」と批判することになった。この点、坂本龍馬のほうは、おもしろい。土佐藩という狭い世界から早々に脱藩し、日本国という新しい概念を構築するとともに、さらには「万国公法」をもって世界の大海へ日本丸を船出させようとした。
▼司馬さんの「竜馬」では、北辰一刀流の奥義を究めようとする剣術家の姿はどこにもなく、刀よりも短銃を懐にしのばせ、さらには、その短銃も無用のものとして「万国公法」の冊子を武器とする痛快無比な青年が描かれる。
▼ただ、坂本龍馬が今日でいう国民的英雄になったのも、「日本を豊かな国にして、万民を幸せにしたい」という奉公の思想が彼にあったからであろう。単に、自社である海援隊の利益追求だけの男だったら、かくも魅力あふれる主人公にはならなかったはずだ。
▼新渡戸はまた、「武士道は、私たちの良心が主君の奴隷になることなど要求しなかった」と書いている。主君への忠誠は、盲目的な服従ではない。その主君に過ちがあれば、命をかけてこれを諌めることによって真の忠義が発揮される。官に仕える武士は辛いものだが、ご政道を正すために、敢えて諌死の一手を打つ場合もある。それが武士の「覚悟」だという。
▼日本人が敬愛する李登輝氏の、青年時代の愛読書が新渡戸の『武士道』であったことから、いまその一書を再読している。もうしばらく、ご同道願いたい。(次稿に続く)
関連記事
抜け毛や白髪は年齢だけの問題ではないかもしれません。中医学では、髪の状態は「腎のエネルギー」と深く関係すると考えられています。下半身の簡単なストレッチが、髪の健康を支えるヒントになる可能性も。
髪は見た目以上に多くを語ります。ストレスや栄養状態、環境曝露まで記録する“健康の履歴書”としての可能性と限界を、最新研究と専門家の視点から読み解く注目記事です。
「少量なら大丈夫」は本当?240万人を分析した最新研究が、わずかな飲酒でも認知症リスクが高まる可能性を示唆。脳の健康とお酒の付き合い方を見直すきっかけになる一記事です。
「忙しい=充実」と思っていませんか。最新の研究と実体験から、過度な忙しさが心身や人間関係に及ぼす見えない代償を解説。立ち止まることの本当の価値を考えさせられる一編です。
透析は命を救う治療だが、腎臓が本来持つ「回復力」を見えにくくしてしまうこともある。必要な時だけ透析を行う新たな治療法で、回復率が高まったという研究と、透析を離脱できた女性の実体験。