(左から)インドのジャイシャンカル外相 、茂木敏充外相、菅義偉首相 、オーストラリアのマリス・ペイン外務貿易大臣、米国のマイク・ポンペオ国務長官は2020年10月、東京で4カ国戦略対話を開催した(役職は当時)(Nicolas Datiche/Pool/Anadolu Agency via Getty Images)

中国の挑戦続く限り、米中対立は続く 激化の可能性も=日本のシンクタンク

東京のシンクタンク「日本国際問題研究所」は、年次報告となる『戦略年次報告2020』を2月5日に発表した。報告は、米中対立の根本原因である中国の軍事力増強と既成の国際秩序への挑戦が続く限り、米中の戦略的対立は一層激化する可能性もあると分析する。

報告は、昨年から始まった中共ウイルス(新型コロナ)の世界的な感染拡大の中で激化した米中対立と競争から、戦略的な重要性が高まるインド太平洋地域に焦点をあてる。

報告は、第二次世界大戦後は圧倒的な軍事力を持つ米国の一極集中を強めた国際安全保障体制が、中国の経済・軍事・技術力の発展を迎え、世界の戦略環境が変化したと指摘。強権的・高圧的な中国は、「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じた経済支援策、そしてコロナ危機における需要の高い医療資源やワクチンを通じて影響力拡大を進めた。

中国は、発展途上国や経済支援を求める国に「マスク外交」「ワクチン外交」を通じて影響力を行使する一方、中国に対して批判的なオーストラリアなどには好戦的な「戦狼外交」を行い、輸入規制を敢行した。こうした中国の政策は、欧米諸国の対中感情を急激に悪化させた。また、中国による浸透工作の結果は、国連人権委員会の賛否で露呈した。報告は、6月に行なわれた国連人権委員会で、日本や欧州など27カ国は香港国家安全維持法に反対したが、途上国を中心に53カ国が賛成に回った例をあげた。

米中分断と競争の激化により「大洋」との位置付けから、日本が唱えた「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想の支持が高まった。日米豪印4カ国の協力枠組み(QUAD)も緊密化し、今後の外相会合の定例化が決定している。2020年11月には、同4カ国が参加するマラバール演習が行われた。インドと他の3カ国の安全保障協力や日豪協力が一層推進され、4カ国それぞれの協力は深化している。

インド太平洋地域政策、欧州やNATOも表明

インド太平洋地域は米国のみならず欧州の関与も強まっている。2019年には、米国防省による「インド太平洋戦略レポート」の刊行、東南アジア諸国連合(ASEAN)による「インド太平洋アウトルック」の発表など、域内からもインド太平洋政策の表明が行なわれた。2020年には、フランスがインド太平洋における防衛戦略の発表、またドイツおよびオランダも同地域政策を表明した。

NATOは、同年12月に今後10年間の戦略課題をまとめた「NATO2030」を発表し、中国を「オープンな民主的社会に対して鋭い挑戦」を突きつける「体制上の全面的な対抗者」と位置づけた。NATOは、対中安全保障課題の諮問機関の設置を検討しているという。

コロナ禍では、国際的なサプライチェーンが外交または政治目的のために利用されることにも警戒感が高まった。米国はクリーンネットワークの創設や5Gの華為技術排除など、デジタル、通信など先端技術の様々な分野のサプライチェーンや研究開発から中国を排除しようとする動きを強めた。

日本は、先端技術を巡る米国の対中政策を受け、サプライチェーンの過度の中国依存の改善にも取り組んだ。朝鮮半島をめぐっては、2019年2月のハノイでの米朝首脳会談以降、前向きな進展はないとした。日中間で当初、関係改善を模索するも停滞していると指摘した。

日本国際問題研究所は、今後の展望として、日米同盟は日本外交・安全保障の基軸であり、日本は、自由と民主主義という普遍的価値を共有する米国との同盟関係を一層強化すると同時に、自国の防衛力を見直し、東アジアの安定のための努力の増大が重要であるとした。

同所は1月、世界最高レベルのシンクタンクに授与する「シンクタンク・オブ・ザ・イヤー2020」を受賞した。米ペンシルベニア大学が28日付で発表した世界有力シンクタンク評価報告書で選んだ。アジアでは初。

同所は2月25~27日、第2回東京グローバル・ダイアログをオンラインで開催する。初日の基調講演には茂木敏充外相を迎える。ほか、ビル・エモット国際戦略研究所(IISS)会長やジョン・アレン・ブルッキングス研究所所長、ハーバート・レイモンド・マクマスター元大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学政治学部教授が出席予定。

(編集・佐渡道世)

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