3月。その日が近づいてきました。
10年前。地が揺らぎ、海がふくらんで、見たこともないような大波が押し寄せました。たくさんの人が、黒い波に呑まれてしまいました。その人の名前を、気が遠くなるほど叫びました。自分のこの手を竹竿のように伸ばしましたが、あと少しのところで届かず、目の前で、その人は引き波にもっていかれました。
家がなくなりました。街も消えました。誰のいたずらか、建物の上に船が乗っかっていました。こっちの四階の窓には、自動車が刺さっていました。
死ななかった人は、泣いて、泣いて、泣いて、それでも次の日を生きました。次の日を生きて、また次の日を生きて、いつの間にか10年が経ちました。
海に向かい、瞑目して祈ります。東京湾でも、大阪湾でも、どこの海でもいい。つながっているその海に向かって。
(慧)
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