「まるで要塞」…堅牢な東海第二発電所の安全対策を取材

2024/02/05 更新: 2024/02/03

日本原子力発電の東海第二発電所(茨城県東海村、東海第二)の安全対策工事を23年末に取材した。大規模工事によって、発電所の安全が高まっている。1月の能登半島地震では、北陸電力志賀原発について、何も起きていないのに「危険だ」と訴える声が挙がった。原子力やエネルギー問題について、一部の人のリスク感覚がおかしくなっているのではないかと疑問に思ってしまうような出来事だ。工事の進捗とその影響について詳述し、リスクと日常生活との関連性を掘り下げたい。

リスク感覚のずれ

東海第二では、原子力規制委員会が2013年に作った新規制基準に対応し、巨大構造物がいくつも作られていた。この基準は東日本大震災からの教訓を基に、安全性の向上を図るものだ。事業元の日本原電は、今年9月の完工を目指している。

東海第二は1978年11月に運転を開始した。出力110万キロワットの発電能力と大きな発電能力を持つ沸騰水型原子炉(BWR)だ。原子力規制委員会は原子炉の運転期間を原則40年としていたが、この原発は安全対策の計画を出して60年までの運転を認められている。

2011年3月の東京電力の福島第一原発事故の直後から東海第二は停止している。この原発は関東に唯一存在し、首都圏に近く、社会の注目も大きい。再稼働すれば、日本の原子力発電の復興と前進の象徴となり得る。さらに関東と東北では電力不足と価格上昇に直面しているが、その問題を改善することが期待される。

まるで城塞のような巨大防潮堤

福島事故の教訓を生かし、東海第二では「自然災害から発電所を守り、電源を絶やさない」「原子炉を冷やし続ける」「放射性物質を外部に漏らさずに地域環境を守る」との3分野の対策が行われていた。

第一の対策は、津波を防ぐ防潮堤の建設だ。東海第二は鹿島灘に隣接する。原子炉を「コの字」に囲む防潮堤は14メートル以上の高さがあり、海面からは20メートルに達する。壁は鉄筋入りの厚さ3.5メートルで、全長は約1.7キロメートル。まるで城塞のようだ。

電源の確保にも力が入れられている。外部からの電力喪失に備えて構内に非常用電源を複数設置し、移動式電源車を頑丈なコンクリート構造物内や高台に置いていた。

第二の対策には、原子炉の冷却機能が強化されていた。これまでの既存の設備に加えて、新たな冷却設備を作った。5000立法メートルの淡水をためる地下タンクが原子炉の隣に設けられた。それが機能しない場合に備えて、別の場所にも同様の水源を設置するほか、熱交換器などを冷やすための海水ポンプピット(貯留槽)も取り付けていた。

巨額の対策投資 安全性は大幅向上へ

(写真2)東海第二発電所(日本原電提供)

第三の対策は、仮に重大事故が発生しても放射能を漏らさず、地域の環境を守る取り組みだ。原子炉の格納容器内からガスを放出しなければならない緊急事態になった際に、放射性物質を取り除く「フィルター付きベント装置」が建設中だった。事故を起こした福島ではこれがなかった。

東海第二の松山勇副所長は「既存の建物の隙間に新規構造物を作るために、敷地の余裕が少なく、難しい工事だ。しかし工夫と努力で課題を乗り越えてきた。地元の皆さまに安心していただける安全なプラントを作り、運営したい」と抱負を語った。

東海第二では、ここまでの大工事で事故の可能性が大幅に減少するのは確実だ。工事費用は約2350億円に上る。投資規模の大きさを考えると、早期の再稼働が求められる。

避難計画が課題に-求められる現実的な想定

私は、この安全対策の大工事を見て、事故の可能性が一段と減ったと安心した。ところが、そのような反応はなかなかみられない。この工事を見る限り、周辺に放射性物質が拡散するほどの事故が起こる可能性は極めて低いといえよう。

しかしながら、避難計画の策定は依然として課題である。東海第二の30キロ圏内には約92万人が居住しており、災害対策基本法の改正により、原子力発電所周辺の住民避難計画が必要となっている。地元の東海村は昨年12月に避難計画を作成・公表するなど準備が進んでいるものの、一部の自治体では広域避難計画が未だに策定されていないことが、運用差し止め(水戸地裁、21年3月判決)の主な理由の一つとなっている。今東京高裁で控訴審が続いている。

昨年11月に県は、日本原電の試算した放射性物質の拡散状況を公表した。議論の糧にする意図のようだが、反対派が一部を拡大し、原子力の恐怖を煽る情報として使っている。

つまり、この工事を受けて、リスクをしっかり認識しようとする議論が盛り上がるのではなく、恐怖を煽って問題を混乱させようとする人たちがいるのだ。「事故が起こったらどうするのか。92万人を避難させることなどできない」と非現実的な意見を述べて、反対する人たちがいる。とても不思議だ。

原子力事故の確率は「1億年に1回」

リスクという英語は、日本では「危険の可能性」、「危険度」という意味で日常では使われる。しかし、厳密に言う場合に、「被害の程度とその影響」と「その起きる可能性」までの意味を含む。つまり「リスクがある」と言うことは、「必ず被害が発生する」と言う意味ではない。リスクを考える際には、さまざまな被害の可能性、そして事象ごとの発生確率を考えなければならないのだ。(環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成30年度版)」

日本の社会問題、特に原子力問題については「リスクがある」と言うと、「大事故が発生する」という過剰反応が起きる。東京電力の福島第一原発事故の後は、特にその傾向が強まる。これで、いいのだろうか。

日本原子力学会で、ある電力会社がリスクを数値化して出した。福島事故前までの安全基準で作られた安全基準で、あるリスク判定方式によってその会社の原子炉の事故確率を算出した。この場合の事故とは、周辺地域で人体影響が及ぶような事故が起きることという。福島事故はそこまで漏洩しなかったので、ここに当てはまらない。海外ではこのように確率でリスクを分析し原子力規制に活用するが、日本の原子力規制委員会は、この確率論による管理アプローチを採用していない。その会社も社名を公表したがらないので、ここでは述べないことにしよう。

原子力事故の確率は、この会社の場合に、福島事故の前には「100万炉年に1回」だった。そして厳しくなった現在の原子力規制基準で、「1億炉年に1回」という。炉年とは原子炉の稼働年数のことだ。日本原電はこの方式で事故確率を採用していないが、安全度は同程度だろう。原子力事故について、ここまでの確率が低い事象に、大騒ぎをしている人たちは、こうしたリスク感覚が欠けているように思う。

日本原電の東海第二については92万人全員の避難が必要との非現実的な想定をするのではなく、起こり得そうな状況に基づいて、現実的な事故計画を早急に立てるべきだ。92万人の避難を考えることは無駄だ。それよりも原子力の活用による利益を考えた方がよい。100万k W(キロワット)級の中型原子炉を1年間フル稼働させれば、800〜1000億円のその代わりに火力発電で使われる燃料費が減る。その活用は、日本経済、国民全体に役立つ。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。
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