中国共産党軍が台湾海峡、南シナ海、オーストラリア近海で大規模な軍事演習を展開し、地域の緊張が高まっている。台湾周辺での「麻痺戦略」の採用など、中共の軍事的野心が顕在化している。米中対立が深まる中、インド太平洋地域の安全保障環境が急速に変化しつつある。
最近、国際政治の情勢は急速に変化し、世界の注目を集めている。しかし、中国共産党(中共)の軍事的動きはほとんど話題にならない。実際、これらの動きは人類の平和に対して大きな危険を孕んでいる可能性がある。
中国共産党の海軍は、台湾海峡や南シナ海、さらにはオーストラリア周辺の海域で一連の軍事演習(実弾演習を含む)を行っている。時には国際的な慣例に従わず、周辺国への通報が規定の時間よりも短いことがあり、これが大きな衝撃を与えている。
これらの行動の背後に、中共は外部に対してどのような意図を示そうとしているのか。戦争の準備なのか、それとも単に威嚇のために牙を見せているだけなのか。
中共海軍はオーストラリアとニュージーランドの間の海域で実弾演習
テレビプロデューサーの李軍氏は、新唐人テレビの番組『菁英論壇』で次のように語った。2月21日、中共海軍はオーストラリアとニュージーランドの間に位置するタスマン海域で実弾射撃演習を実施した。参加した艦艇は、055型駆逐艦「遵義」、054A型フリゲート艦「衡陽」、補給艦「微山湖」の3隻で、演習はシドニー南東約340海里の地点で行われた。翌日にはニュージーランド近海でも再び実弾演習が行われた。
中共側の説明によると、海軍は緊急周波数を用いて民間航空機に数時間前に演習区域から離れるよう警告したとのことである。しかし、オーストラリアとニュージーランドの政府は、この通知がわずか数時間前という短時間であり、国際的な慣例である12〜24時間前という基準を大きく下回ったため、多くの民間航空機が飛行中に進路変更を余儀なくされたと述べている。
オーストラリア国防相リチャード・マールズ氏は、「オーストラリア側は民間航空機のパイロットからの報告で初めてこの演習を知った」と述べ、この行為が民間航空機の安全に「憂慮すべき」影響を及ぼしたと非難した。また、オーストラリア首相アンソニー・アルバニージー氏も外交ルートを通じて中共側に懸念を伝えたと語った。ニュージーランド国防相コリンズ氏によれば、ニュージーランド海軍のフリゲート艦「テ・カハ」が中共軍艦による実弾発射を目撃し、「タスマン海域ではこの規模の演習は初めて」として、短時間での通知に懸念を示した。
一方、中共外交部の報道官は、この演習は南部戦区海軍が組織した「遠洋訓練」であり、国際法に則ったものであると主張した。また、中共国防部の報道官もオーストラリア側が「意図的に騒ぎ立て」「理不尽な非難」をしていると批判した。
李軍氏によれば、2025年以降、中共の海軍と空軍は台湾周辺や南シナ海、さらにはオーストラリア近海で頻繁に実弾演習を実施している。特に2月下旬以降、その頻度と規模は急速に拡大している。2月26日には、中共軍が事前の予告なしに合同戦備巡回活動を開始し、32機の航空機を投入して台湾南部沖40海里地点で実弾演習を行ったと発表した。また、最近ではアメリカ、フランス、日本もインド太平洋地域で合同訓練を展開しており、この地域の緊張感は一層高まっている。
055型駆逐艦の能力と中国海軍の拡張
元中共海軍中佐の姚誠氏は『菁英論壇』の番組で次のように説明した。中共の055型駆逐艦は最大排水量が1万3千トンを超え、その垂直発射システム(VLS)は112セルを備えている。一つのセルには4発のミサイルを搭載可能で、最大448発のミサイルを搭載できる能力を持っている。これらのミサイルには対空用の「紅旗」シリーズや対艦用の「鷹撃」シリーズなど多様な種類があり、合計で約450発を搭載できるとのことである。
055型駆逐艦は航続距離が非常に長く、中途補給なしで最大5千キロメートルに達する。遠洋航行時には補給艦が必要で、今回オーストラリア近海では補給艦「微山湖」が同行した。
姚誠氏によれば、055型駆逐艦は世界最大級で、中国ではすでに8隻が就役している。そのうち4隻は北部戦区、4隻は南部戦区に配備され、東部戦区には配備されていない。現在、さらに1隻が進水し試験航行中で、今年中に3隻、来年には2隻が進水予定。これにより、来年末までに合計14隻に達する見込みだ。
中共の挑発が台湾で偶発的な衝突を引き起こし、米軍との決死の戦いを狙っているのかもしれない
姚誠氏は『菁英論壇』で次のように述べている。最近、中共海軍は3つの艦隊を展開している。1つはオーストラリア方面、もう1つは日本の宮古海峡を通過し、台湾東部から南下してバシー海峡を抜け、高雄沖40海里付近に位置する艦隊、そして最後の1つは北部湾(トンキン湾)に展開している。この時期にこのような行動を取る理由は、外部環境の変化にある。
アメリカはヨーロッパから兵力を撤収し、その矛先を中共に向けている。つまり、アジア太平洋地域に焦点を当て、欧州から一部の兵力がこちらに移動することになる。そのため、中共はアメリカを最大の脅威かつ敵と見なしている。トランプ氏はNATOを放棄する可能性があるが、アジア太平洋地域における小規模なNATO(アジア版小NATO)は放棄せず、むしろ強化している。そのため最近、アジア版小NATOや米軍同盟国が中国周辺海域で頻繁に存在感を示している。
例えば、オーストラリアは先日、西沙諸島と海南島の間にP-8A対潜哨戒機を派遣したが、中共の殲-16戦闘機2機がこれを追い払った。今回の中共艦隊のオーストラリア方面への進出は、戦闘目的ではなく、「お互い様」の示威行動である。相手が自分の家の玄関先まで来たので、自分も相手の家の玄関先まで行って誇示するというわけだ。
もう一つの艦隊は075型強襲揚陸艦を中心とした非常に大型な編成で、日本の北方から宮古海峡を通過し、台湾東部沖から南下してバシー海峡を抜け、高雄沖に到達した。この行動は作戦計画に基づく訓練科目であり、中共には「実戦がどのように行われるか、その通りに兵士を訓練する」という言葉がある。
そのため、この艦隊は台湾高雄沖40海里地点に泊まり、それ以上前進しない。台湾側の沿岸砲台(暗炮)の射程距離外となる40海里以上離れた場所で活動している。
さらに、中共は北部湾で実弾演習を実施した。高雄沖でも同様の演習が行われ、これら3つの艦隊はすべて実弾訓練を行っている。
中共を抑える米国のインド太平洋戦略
姚誠氏によれば、米中両国は互いを敵視し、共に台湾カードを切っているため、必ず一度は戦争が起こると予測される。矛盾は調和の取れないレベルに達している。中共は、台湾海峡や南シナ海、その他の海域において、小国や台湾との直接的な戦闘を望んでいない。台湾との消耗戦の後、米軍やアジア版小NATO諸国に付け込まれることを恐れているからである。したがって、中共が選ぶ手法は台湾攻撃ではなく、封鎖である。
今年下半期、中共は台湾上空に飛行禁止区域(ノーフライゾーン)を設ける計画を進めている。現在、海上封鎖は一定程度行われているが、完全ではないため、空中封鎖も必要とされている。全面的な封鎖態勢が整った後、中共はアメリカの動向を注視することになるだろう。もしアメリカが介入すれば、中共は全軍事力をアメリカとの戦闘に向ける覚悟だ。中共は、米軍を西太平洋から排除しなければ問題解決の道がないと認識している。そのため、現在の中共指導部はアメリカとの決戦に備え、アメリカを退けなければ生き残る術がないと考えている。この状況は、経済制裁や技術封鎖、関税引き上げなどからも明らかである。
姚誠氏の話によれば、アメリカはアジア版NATOの強化を通じて中共を包囲しようとしており、中共は台湾周辺で意図的に偶発的な衝突(擦槍走火)を引き起こし、アメリカ軍の介入を試みているとのことである。もしアメリカ軍が介入しなければ、中共は別の手段を講じる可能性が高く、介入すれば決死の戦いが待ち受けるだろう。現在の米中間の軍事戦略配置は、まさにこのような状況にある。
台湾周辺での「麻痺戦略」と封鎖の可能性
また、ベテランジャーナリストの郭君氏は『菁英論壇』で次のように指摘している。中共の台湾海峡や南シナ海周辺での行動は、予想の範囲内であり、特に台湾海峡では「麻痺戦略」を採用している。台湾海峡は広大で、中共が渡海攻撃(上陸侵攻)を行う際、その突然性が決定的な要素となる。このような大規模な戦争には、第一級戦備態勢への移行や交通インフラへの軍事管制措置など、膨大な準備が必要である。また、現役兵士の招集や予備役の待機といった大規模な動員も伴う。したがって、現在中共は頻繁な演習や示威活動を通じて警戒心を鈍らせることを狙い、人々や周辺諸国が麻痺状態に陥った際、本格的な侵攻時には突然性や奇襲効果を最大限に発揮できるよう準備を進めている。
郭氏は、中共の実弾軍事演習や軍艦、戦闘機による台湾への挑発行動が主に台湾南西の海域で行われていると指摘した。その理由は2つある。一つは、この地域が沖縄島から遠く、沖縄に基地を持つ米軍からの距離を確保できること。もう一つは、この海域が高雄に非常に近いことだ。高雄は台湾最大の深水港であり、もし高雄を占領できれば、大量の上陸部隊や補給物資をここから迅速に上陸させることが可能になる。これはもちろん中共の計画そのものである。
アメリカの対応策は明確で、フィリピンと連携しバシー海峡の離島を武装化している。この地点から高雄までは約100キロの距離である。アメリカは現在、これらの島々に空港を建設中で、将来的には米軍の沿岸作戦連隊を配備する見込みである。配備する長距離砲は高雄沖まで届き、ミサイルも同様である。このため、南シナ海の重要性はますます増している。中共海軍が南シナ海で頻繁に活動しているのは、台湾作戦との関連が深いからであろう。
郭氏は、中共がオーストラリア東部海域で突然実弾演習を行ったのは主に威嚇目的だと述べた。055型駆逐艦のような大型艦でも、制空権や他艦艇との連携がなければ自殺行為に等しい。この動きから、中共がすでに太平洋全域に視野を広げていることが伺える。
第二次世界大戦中、アメリカと日本の戦闘の大半は南太平洋で展開した。オーストラリア北東部の珊瑚海は米日海軍の主戦場となり、ソロモン諸島のガダルカナル島では、たった一つの島で9か月以上にわたる激闘が繰り広げられた。この地域が重要なのは、珊瑚海やソロモン諸島が米国とオーストラリアの航路上に位置し、占領すると両国間の連絡を遮断するからである。
現在、アメリカのインド太平洋戦略は「日米豪印」の4か国連携体制に基づいている。アジア太平洋地域では、日本が北の鎖、オーストラリアが南の鎖として機能し、この二つの強力な鎖をどう突破するかが中共海軍の大きな課題となっている。
郭氏によれば、中共は戦争準備を加速させており、西側諸国、特にアメリカと日本に対して大きな圧力をかけている。しかし、現時点では中共はオーストラリアに対して真の脅威とはなり得ず、その行動には威嚇的な要素が多いとしている。
現在、アメリカは世界規模で軍事力を集め、その資源や兵力をインド太平洋地域に集中させている。この動きは明確で、アメリカ政府の関係者も中共への対処を目的としていると公言している。
アメリカがこの戦略的集中を完了し、軍事力の配置を終えた場合、中共による台湾侵攻の機会は失われる可能性が高い。中共は一方で完全な準備が整っていないように見えるものの、この時間的機会が失われようとしているため、一か八かの危険な冒険に出る可能性も否定できない。
中共は軍備を拡張し、軍事費が不透明で、実際にはアメリカを超えているのか?
姚誠氏は、中国経済が厳しい状況にあるにもかかわらず、軍事費が7.2%増加し、ここ数年と同様のペースで毎年増加していると指摘した。
中共全国人民代表大会(全人代)が発表した財政予算における軍事費は1兆7800億元(約36兆円)であるが、以前から指摘している通り、中共の軍事費には不透明な部分が多く、公表した数字は主に日常経費に限られ、大規模な装備費などは含んでいない。
さらに、中共には200万規模の正規軍に加え、100万規模の武装警察や多数の省軍区・軍分区、予備役部隊が存在し、省レベル以下の部隊や予備役部隊への支出は地方財政が負担しており、公表した軍事費には含まれでいない。これらを考慮すると、中国全体の軍事費は少なくとも7千億ドル(約104.8兆円)に達し、アメリカの軍事費は約8千億ドル(約119.8兆円)である。購買力を考慮に入れると、中国の軍事費は実際にはすでにアメリカを大きく上回っていると言えるであろう。
姚誠氏によれば、中共はGDP比1.5%(アメリカは3.5%)と主張しているが、その兵員数はアメリカの2倍以上であり、実際には公表していないため、支出総額も米国を上回る可能性が高いとしている。「窮兵黷武」(無理な軍拡)の状況にあり、これはレーガン政権時代のスターウォーズ計画によって旧ソ連経済を疲弊させた状況に似ている。
『菁英論壇』で、大紀元の主筆の石山氏は、ワシントンD.C.での智庫関係者への取材経験から、「中国が公表している軍事費は全体支出の20〜30%程度に過ぎず、実際には7千億ドルではなく、1兆ドル(約150兆円)近くに達する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
郭君氏は、これは第二次世界大戦中の日本に少し似ていると述べている。当時、アメリカの軍事力は非常に弱く、軍隊は約20万人しかいなかったが、世界的に戦争が勃発したため、アメリカは急いで戦備を整え、武器の装備や軍隊の訓練を行っていた。
日本は、アメリカが完全に武装し、全体的に展開するのを待っていては勝てないことをよく理解していた。そこで、日本はアメリカがまだ完全に武装しておらず、全面的に展開していないうちに、突然攻撃を仕掛けた。中共もこの戦略を学ぶ可能性があるかもしれないが、現時点ではその兆候は見られない。
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