3月30日、参議院会館で大紀元の取材に応じる大磯義一郎・浜松医科大学教授(清雲/大紀元)
【医療現場の奮闘と苦悩】

浜松医大訴訟に対応した教授、中国臓器移植の闇を語る

「残念なことに、日本も違法性が疑われる渡航移植に加担している」。国内の裁判を通じて、人道的問題を抱えるとされる中国の臓器強制摘出問題に向き合った浜松医科大学の大磯義一郎教授はこのほど、大紀元の取材に対し日本の海外移植ツーリズムの問題について語った。大磯教授は、日本における違法なあっせんの廃止と、渡航移植の透明性を確保した法整備の必要性を説いた。

タブー視されたことが明るみに

大磯氏によれば、同大学の泌尿器科教授は、臓器取引と移植ツーリズムを禁止すべきとしたイスタンブール宣言(2008年)が出される前の2000年初期から、不正が疑われる海外渡航移植の問題を認識していたという。大磯氏は「中国で臓器移植をしてきた、と入ってくる患者さんが出始めた。紹介状なども含め適正な移植手術が行われたとは思えないことは一目瞭然だ」と語った。

いっぽう、イスタンブール宣言以降でさえ、日本における渡航移植問題の認知は低いと指摘。医療界でもこの問題は長らくタブー視されていたとのこと。違法性のある組織との関与が疑われることもあるため、民間単独での対応は困難となることもある。中国の非人道的な臓器移植の問題を認知していないため、中国に対して日頃厳しい意見を持つ新聞社でさえ、浜松医大の対応を批判する論調を展開していた。「この状況は現場の医師たちを苦しめた。(渡航移植は)警察も対応困難な事案だ」。

大磯氏は、絶命の危機に瀕している患者が、犯罪性が疑われるとしても渡航移植を選んだことについて指弾は避けたいとした。同時に、渡航移植患者を積極的に受け入れる状況が日本の病院で生まれるのも適切ではない。「海外で(詳細不明な)移植手術をしてきたから、日本の病院でフォローをお願いします、というのは違和感がある」。

「医師としてのプロフェッショナリズムから、人道問題に関与するわけにはいかない」と大磯氏は職業倫理を強調した。「大金を受け取り渡航移植サービスをする仕組み自体が存在すること自体おかしい。廃止されなければならない」と指摘した。また、あっせん組織が日本拠点であった場合には、現行の臓器移植法でも対処しうるのでは、と述べた。

最近では、議員たちの中国渡航移植問題について認識が高まり、国会でも取り上げられるようになった。「タブー化されていた問題がようやく表沙汰になった。医師たちにとって、やっと日本当局が対応をしてくれるのか、との思いだ」と述べ、違法な渡航移植あっせんの撲滅と、渡航移植の制度整備や透明性確保などのルール化が必要だとした。

中国臓器移植を含む人権問題に対し、米国や英国、欧州連合(EU)など主要国は共通して明確な強硬姿勢をとっている。その背景には、法輪功学習者やウイグル人が犠牲になっているという人権団体からの指摘がある。

大磯氏は「こうした人狩りのような問題が現代に存在してはならない」「強制臓器摘出のような問題は明日すぐになくなるような話ではないかもしれない。しかし、問題認識を高め、国際社会がしっかり監視をしていくことで、問題の当事者たちに対する牽制になるのではないか」と情報の広がりに期待を込めた。

「39日」で見つかった健康なドナー

大磯氏は、東京の参議院議員会館で3月30日に開かれた、中国臓器強制摘出問題に取り組む人権団体「SMGネットワーク」成立3周年記念集会で基調講演を行った。海外で詳細不明の移植術を受けた患者が病院を訴えて敗訴となった裁判例を紹介し、海外への渡航移植について問題提起を行った。

資料によれば、腎不全の患者Xは、インターネットで検索したNPO法人に中国での渡航移植のあっせんを依頼、約1800万円を支払った。2015年、患者Xが中国に渡航したわずか39日後に33歳の女性ドナーが見つかり、移植手術を実施した。ちなみに、腎移植の日本国内における待機時間は15年程度だ。帰国後、患者Xは自宅周辺の病院での外来通院を希望するも、元々のかかりつけ病院を含む2施設は診療を拒否。最終的に、患者Xは国立大学病院である、浜松医大で受診を希望した。

患者Xが持参した「紹介状」は、医師らを驚愕させた。移植手術という大きな手術でありながら、いつ、どこの国のどの病院で、どちらの腎臓を摘出・移植したのか、どのような腎臓が移植されたのか、一切書かれていない「スカスカ」な紹介状だった。

通常の移植手術の場合、転院時の患者の状態、各種検査の数値、薬剤の使用およびアレルギーの有無、移植腎機能の推移、病状と医療経過など、詳細な情報が記載される。また、転院先とかかりつけの病院との医師が相互に情報交換するという。

浜松医大は、患者Xは正規なルートで腎移植を受けたのではなく、移植術を実施した病院も責任をもって浜松医大へ診療を引き継ぐ意思がないと判断。外来担当医より診療を継続することはできないと伝えた。

患者は、医師法19条1項で規定される「応招義務」に違反したとして、2016年に浜松医科大学に対し約270万円の損害賠償請求を行った。静岡地裁で行われた一審では患者側が敗訴し、控訴。東京高裁は、海外渡航移植ビジネスに加担・関与した疑いの存する患者に対し診療を差し控えた判断は正当であり、浜松医大が患者を「臓器売買の絡むような腎移植をした者」である疑いがあると判断したのは十分な理由があったとして、原審の判決を維持した。患者側はさらに上告受理の申し立てを行ったが、最高裁は不受理の決定を行い、高裁判決が確定した。

臓器移植法で臓器売買は禁止されている。また、無許可のあっせんは禁止されており、業として行うには厚生労働大臣の特別な許可が必要となる。日本国内の臓器移植は、国内で唯一許可を受けたあっせん組織である「日本臓器移植ネットワーク」が登録制度を整備し、どこで、誰が、どのような手術を受けたかが追跡可能となっている。

しかし、現在のところ、海外の渡航移植については、登録制度の対象になっていない。大磯氏は、違法性の高い渡航移植について、「あっせん」のルールを明確化すること、また、渡航移植のデータベース管理、追跡などを含む透明性の確保を行うよう提案した。

(取材・王文亮/文・佐渡道世)

関連記事
台湾の外科医が中国での違法な臓器移植仲介の罪で起訴された。今回の起訴は台湾での2015年の法改正以来、初めて。強制的生体臓器摘出が再燃する中、医療倫理や人権問題が焦点となっている。
12月10日、中国で厳しい弾圧の対象となる気功、法輪功の日本在住の学習者による証言集会が開催された。出席者は中国で家族が拘束されている現状や、自身が拘束中で受けた拷問の実態を訴えた。現在米国在住の程佩明さんもオンラインで参加。程さんは収容中に、拷問を受け、臓器を摘出された実体験について語った。
ドキュメンタリー映画『国家の臓器』が上映された。映画は中共による、生体臓器摘出の実態を描いており、映像を見た観客からは「非常に非人道的な行為だと強く感じた」「もっと多くの人に事実を知ってもらう必要がある」などのコメントが挙がった。
中共による臓器摘出から生還した程佩明さんが真実を告白。暗殺の危機に直面しながらも、真実を語り続ける姿勢に世界が注目し、米国も保護を進める。人権侵害の実態に対する国際社会の連帯が求められている
中国の中南大学湘雅第二病院に勤務していた羅帥宇氏が、不審な死を遂げた。生前の録音から、同病院が臓器移植研究のために子供のドナーを求めていた可能性が浮上。彼の家族は、羅氏が病院告発を計画していたことから口封じされたと主張している。