アメリカの大学に出現したセーフスペースは、その理想を放棄したようである。(Josh Edelson/AFP/Getty Images)
<オピニオン>

セーフスペースが言論の自由を奪う

オックスフォード辞典によると、セーフスペース(安全な空間)とは「差別や批判、嫌がらせに晒されることのない環境」を指す。これは社会的少数派が安心して自分を表現できる場所であり、言論の自由を追求するのが前提だ。しかし、アメリカの大学に出現したセーフスペースは、その理想を放棄したようである。

大学のセーフスペースはオープンな表現を促進するよりも、反対意見を封じ込めることに特化している。「不快感を与える可能性がある」という理由で反対のイデオロギーを遮り、学生を保護している。その結果、学生は居心地のいいバブルに包まれ、自分と違う意見を聞くことができなくなった。大学は、閉鎖的なコミュニティの中で同じ意見ばかりが響きあう「エコチェンバー現象」に陥っている。

2015年、ニューヨーク・タイムズはブラウン大学での講演会を巡るセーフスペースについて報道し、注目を集めた。大学側は学生が講演者の言葉に傷つくことを懸念し、感情を落ち着かせるための枕、毛布、音楽、子犬のビデオ、クッキー、塗り絵、粘土を用意した。以来この現象は全米に広がり、ますます愚かさを増した。学生を知的不快感から守るために、大学は講義案内にトリガー警告(閲覧注意)を付け、スピーチ・ポリシーで講師の発言を制限するようになった。

▶ 続きを読む
関連記事
中露の緊密な連携がもたらす地政学的危機と、日本の新インテリジェンス体制『国家情報局(NIB)』の脆弱性を冷徹に解剖。民間企業に忍び寄る技術強奪や認知戦の脅威に対抗する、ビジネス防諜のあり方を提言
全米で広がるデータセンターや監視カメラへの反発は単なる新技術への拒絶ではない。国家権力と巨大資本が結託し、上から押し付ける「不自然な進歩」と統制網に対し、生活と自由を守る民衆が示す根源的抵抗の本質に迫る
臓器提供前の死亡を原則とする「デッド・ドナー・ルール」撤廃の議論が生命倫理界で台頭している。臓器摘出を直接の死因とする過激な提案が、移植医療への信頼を崩壊させかねない危機に警鐘を鳴らす論評
アメリカの中間選挙を控え優勢が伝えられる民主党に対し、トランプ陣営の対イラン戦略の成果や豊富な選挙資金、民主党内の急進左派・民主社会主義者の台頭がもたらす逆風を分析。共和党が上下両院を維持する可能性を論じる
米国への不満から中国への接近を図る西側同盟国に対し、経済依存を武器化する中国の危険性を警告する論評。経済と政治を切り離せると過信し、過去の教訓を無視して中国を頼ることは、自らの弱点を晒す愚行だと説く