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≪医山夜話≫ (57)

魚スープ

「大工の家の腰掛けは3本足、裁縫の家の子供は尻丸出し、医者の家の病人は誰も治さない」という諺があります。

 小さい時から我が家では、病人は魚のスープを飲む特権がありました。私の故郷は中国江南の水郷にあり、川魚で作ったスープは美味しいご馳走です。子供が多いため、旧正月などの特別な時以外、めったに魚スープを口にすることはありませんでした。ですから、病気にかかった時に飲める魚スープは、私にとって大きな誘惑でした。

 私は末っ子ですが、2歳年上の兄は私より祖母の愛情をたくさん受けていたので、よく魚スープを飲んでいました。兄が苦い漢方薬を飲むふりをして、見た目はとても苦しそうですが、時々満足そうな表情を浮かべるのを見て、私はとても羨ましいと感じました。そこで、「魚スープを飲めるなら、たとえ病気になってもいい」と密かに思っていました。

 私は時々、鼻水が出ることがありましたが、風邪をひくことはありませんでした。とうとうある日、私は本当に魚スープを飲んでもよい程の重い風邪をひき、祖母が念願の魚スープを作ってくれました。しかし口に入れようとしたとき、匂いを嗅いだだけで私は吐き出してしまいました。兄がやってきて、「飲み込めないなら、僕が手伝って飲んであげるよ」と言いました。私はもう悔しくて、わざとこのために自分は風邪を引いたのにと、なんとか体を起こしてもう一度お碗を口元に持っていきましたが、本当に気持ちが悪くてたまりませんでした。私は、ただ兄が美味しそうにスープを飲み干すのを見ているしかありませんでした。

 医者である母が診療所から帰ってきたので、私は母に訊ねました。「どんな風邪だと食欲がなくなり、どんな風邪なら食欲に影響がないの?どうして兄さんは病気にかかっても普通に食べられるのに、私はこんな風に気持ちが悪くなるの?」母は、私にこう言いました。「あなたが病気にかかった動機が良くなかったために、風寒風邪になったのよ。つまり、胃腸の調子が悪くなり、頭と体も痛くて食欲が出なくなるの。温水を多く飲んで眠ったら治りますよ…」と母は優しく教えてくれました。

 その後、我が家のルールは変わりました。病気にかからなくても、魚スープを飲む機会が増えました。しかし、毎回飲む時、私はあの時の病気の原因、そして執着すればするほど手に入れられないという教訓を思い出します。

 大人なった今でも、私の心の奥底を知る母の視線を感じます。「病気を求めてはいけません。いったん本当に求めて病気を『手に入れた』としても、きっと何らかの原因であの魚スープを楽しむことはできませんよ」と、母の暖かなまなざしが私に教えています。

(翻訳編集・陳櫻華)

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