チベットの光 (49) 望郷の念
ミラレパがとぼとぼと歩いていると、突如として見慣れたような、しかし完全には記憶にはないような所に辿りついた。彼が目を凝らして見ると、それはシャアツェ地方の実家であった。それは四つの柱と八つの梁でできていたが、すでに記憶は確かではなく、その前に立ってみると、それは無残にもボロボロになって見る影もない。子孫代々に伝わった大事な仏法のお経も水にぬれて破れ、三角形の畑も野草でぼうぼうとなっていた。
家には一人もいなかった。母は既になく、妹も糊口を求めて他の土地に移り、乞食となっていた。ミラレパはこの閑散とした状況を目にし、幼少のころから遭遇した事が、その刹那忽然と脳裏に蘇ってきた。彼は、年少の頃に母親と妹と別れ、長年会うこともなく、もう永別したのだ。彼は、再び母親に会うことができないことを思うと、心の中に無限の悲痛が沸き起こり、忍びきれずに大声で泣きだした。「母よ!妹よ!」
こうして叫んだ時、忽然として目が覚めた。彼は元々洞窟の中で修行していたのだ。彼が籠りはじめた頃、寝ることもなく打座していたが、今朝の黎明時には思いもかけず寝入ってしまい、夢の中で故郷に帰っていたのであった。彼が夢から醒めると、衣服には涙で大きな沁みができていた。彼は母を偲ぶとき、涙がとめどもなく流れ出てきた。
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