≪医山夜話≫ (16)

人生の不運と幸運

私と長年の付き合いがあるルーシーは、少しでも体の調子が悪いと、私の診療所を訪れて漢方の治療を受けていました。彼女の家族も漢方医を信頼していて、どこか調子が悪いところがあればまず漢方薬の処方と鍼灸にかかるので、私は彼女の生活状況などが徐々に分かってきました。

 レストランを経営しているルーシーは毎日長時間働き、朝から晩まで休む暇もありません。彼女は一生懸命働けば、将来きっと大きな家に住み、古い車を新車に変え、小さいレストランから大きな店舗に移れると固く信じていました。このような強い思いを胸に、彼女は10数年間の苦労を乗り越えてきました。ところが、商売も順調に伸びて店が繁盛し、彼女にとって一番の働きざかりのこの時期に、大きな禍(わざわい)が降りかかりました。この絶頂期に、彼女の夢は無残にも打ち砕かれました。

 彼女は、末期のすい臓がんを患っていたのです。担当医は手術後、「あなたの人生は残り少ないので、すぐにレストランを閉めた方がいいでしょう」と彼女に告げました。

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