中国動画投稿アプリ「TikTok」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)本社ビル。(NOEL CELIS/AFP via Getty Images)

バイトダンス、CEOの張氏が退任へ 中国国民「IT大手トップの引退ラッシュ」に不安視

中国動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)は20日、共同創業者で最高経営責任者(CEO)の張一鳴氏(38)が今年末にCEOを退任すると明らかにした。近年、IT大手の若い創業者らが相次いで経営の第一線から身を引いたため、張氏の退任は中国で波紋を呼んだ。

張氏は20日、社員に宛てた書簡の中で公表した。張氏は、創業以来、バイトダンスの事業が良好に発展しているが、「会社は引き続き、イノベーションにおいてさらに突破する必要があり、より創造的にならなければならない」とした。同氏は、日々の経営に関する業務から離れ、ビジョン・主要戦略、企業文化や社会的責任などの長期的な重要業務に集中することを決めたという。

書簡によると、同社の共同創業者である梁汝波氏がCEOの職に就く。張氏と梁氏は大学時代の同級生で、2012年にバイトダンスを設立した。

EC最大手アリババ集団の創業者・馬雲氏、同業の京東集団の劉強東氏に続き、共同購買型ECサイト「拼多多(Pinduoduo)」の創業者で会長の黄崢氏(41)も今年3月に会長を退任した。

中国問題評論家、趙稚氏は20日、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対して、「張一鳴氏の退任は、ビジネスからの決定ではない。今の中国には、民営企業が当局の要求に絶対に服従しなければならないという雰囲気が広がっている」と述べた。

趙氏は、「中国の新興企業の多くは順調に成長しているが、実は、その一部がもともと国家プロジェクトであるためだ」と指摘した。経営者は、中国当局に代わって会社運営を行っているだけだという。

「一つの企業の成功の裏には、当局が様々な顧問団、専門家などを集めて事業を展開してきた可能性が高い。事業が成功すれば、もう経営者への用が済んだため、経営者らは退くしかない」

昨年8月、米国のトランプ前大統領はTikTokについて国家安全保障上のリスクがあるとして、米国民や企業に対してTikTokとの取引を禁止する大統領令に署名した。これを受けて、TikTok側は提訴すると反発した。

同年9月、米司法省は連邦地裁に提出した文書の中で、バイトダンスは中国共産党と密接な関係にあると指摘した。文書は、同社と中国共産党の関係を証明する複数の事例を挙げた。

中国版ツイッター、微博(ウェイボー)では、張氏の退任について強い関心が集まった。ユーザーらは「(IT企業トップの)退任ラッシュだ。何が起きた? これから何が起きる?」と不安視した。また、「(民営企業が)みんな国営企業になるのでは」との声が上がった。

広東省広州市民の王愛忠さんは、「周りの人は、張一鳴氏の引退に動揺している」「拼多多の会長の黄崢氏もこの前、辞めた。彼らは40歳ぐらいで、まだ若いのに。彼らはきっと圧力を受けたのだろう」とRFAに語った。

中国人学者の段氏は、「ここ10年間、アリババ、テンセント、バイトダンスなど、中国のIT大手が急速に成長している。これらの企業の創業者が相次いで退任したことに、中国の人々は怪しく思っている」と述べた。

中国当局は近年、「国進民退(国営企業が増進し、民営企業が縮退する)」政策を進めている。また、現在はIT企業に対する締めつけを強めている。当局は、独占禁止法をめぐって、アリババ集団、京東集団、テンセントなどに罰金を科した。

段氏は「この情勢のなかで、張一鳴氏はやむを得ず引退を選んだのだろう」と語った。

中国当局は昨年9月、国内と香港・マカオの民営企業に対して、「听党話、跟党走(党の指示に従い、党と共に)」との通知を伝達し、企業内に党支部を設置することを要求した。

アリババ集団とバイトダンスは創業当初から、党支部を設立した。京東集団には150以上の党支部がある。拼多多は18年2月、党支部を設置した。この党支部は現在、党委員会に格上げされた。

(翻訳編集・張哲)

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