米政府は2020年7月、在ヒューストン中国総領事館の閉鎖を命じた(MARK FELIX/AFP/AFP via Getty Images)

科学技術外交官、中国当局が海外技術を取得ためのブローカー 日本もターゲット=米VOA

米国で発表された最新調査報告は、中国在外公館の科学技術担当外交官が仲介者として、中国企業が海外の技術を獲得する機会を見つけ、中国共産党の産業政策を推進してきたと指摘した。

米国の在ヒューストン中国総領事館が昨年、米政府に閉鎖される1週間前、中国科学技術部(省)が管轄する情報サイト「中国国際科学技術協力網」は在ヒューストン総領事館が提案したプロジェクトを紹介した。

同プロジェクトによると、2種類の無針注射装置の特許権を持つコロラド州医療機器メーカー、ファーマジェット(PharmaJet)社が中国国内に進出し、無針注射器によるワクチン接種で中国当局に協力するという。

中国科学技術部は2008年、当局が掲げた「創新型国家の建設」の目標を実現するため、「科学技術外交官サービス・イニシアチブ」をスタートした。中国在外公館の外交官はこの13年間、中国企業や機関などに対して、千件以上の国際的な科学技術協力や投資の機会を提供した。

米ジョージタウン大学セキュリティ・新興テクノロジーセンター(CSET)の研究員、ライアン・フェダシク(Ryan Fedasiuk)氏は米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対して、「中国の52の在外公館には約150人の科学技術外交官がいる。彼らは、外国技術取得という中国当局の戦略ではブローカー(broker)として活動している」と述べた。

フェダシク氏は、中国外交官は、民営企業のように見えても実際は国営企業の可能性がある中国企業のために、国際協力の機会を取得するよう活動していると指摘した。

フェダシク氏らの研究チームはこのほど、最新調査報告書『中国が欲しがる海外技術リスト(China's Foreign Technology Wish List)』を発表した。報告書は、中国の科学技術外交官が2015~20年までに中国国内に送った国際協力プロジェクト情報642件を分析し、外交官らの活動過程を考察した。

報告書によると、外交官らの活動は4段階に分けることができる。

まず、中国外交官らは、国内のニーズ、特に中国当局が設定した科学技術政策や産業政策の目標を把握すること。次に、駐在国の業界団体や中国系住民団体、中国共産党統一戦線工作システムを通じて、海外科学技術の最先端の開発状況を学び、中国企業などが連携・投資できるプロジェクトや人材を特定すること。さらに、海外の業界団体や中国共産党統一戦線工作組織と連携して、科学技術投資のマッチングを行うこと。最後に、海外の技術を国内の利益に変えることである。

研究チームは、中国の科学技術外交官が推薦した30社の外国企業を調べた。そのうち、14社は中国企業との間で合弁会社の設立、あるいはライセンス認証の契約締結などを行った。

同報告書は、在ヒューストン中国総領事館が、当局主導の海外ハイテク技術情報収集の中で重要な役割を果したと指摘した。米政府が在ヒューストン中国総領事館を昨年7月に閉鎖する前、中国在外公館の中で、同総領事館が推薦した国際協力プロジェクトが最も多かったという。米国に関するプロジェクト情報の9割は同総領事館が提供した。しかし、米政府に閉鎖された後、「中国国際科学技術協力網」が掲載した米関連プロジェクトの件数が現在の1件まで激減した。

リストの中身

報告書が642件の国際協力プロジェクトについて分析した結果、バイオテクノロジーに関するプロジェクトが最も多いと分かった。このうち190件のプロジェクトは、中国の製造業振興政策「中国製造2025」が言及した生物医学や医療機器産業と関わる。また、別の171件のプロジェクトは、人工知能や機械学習などの情報技術と関係する。半導体を製造するための設備やレーザー・レーダーに関するプロジェクトもあった。

外交官らは、潜在的に軍事応用できる技術にも興味を示した。

在イスラエル中国大使館は2019年4月、イスラエルの軍事用無人航空機メーカーであるエアロノーティクス(Aeronautics Group)社に中国企業を推薦し、両企業による無人航空機システムの協力プロジェクトを推し進めた。同大使館は、エアロノーティクス社について、「軍事用および民間用航空機の開発・応用分野において、世界一の人材と技術設備を持つ」と評価した。同社が開発したAerostar Tactical UAS無人機システムは、米軍、オランダ軍など、各国の軍に採用されている。

フェダシク氏によると、中国の科学技術外交官が推したプロジェクトの多くは商業目的で、中国企業の競争力を強化するためであり、国家安全保障と関係していない。しかし、一部のプロジェクトは「ハイテク技術や軍事応用に関係する」という。同氏は、中国外交官は、軍事に関わる情報技術分野に強い関心を持つと指摘した。

報告書は、これらの国際技術協力プロジェクトを国別に分けた。ロシアとの協力プロジェクトが112件で、最も多いという。米国は77件で2番目に多い。3位は英国(62件)、4位は日本(57件)。報告書は、米国との協力プロジェクト件数は全体の12%しかないが、米同盟国とのプロジェクトの総件数は70%を上回ったと懸念した。

さらに、報告書が642件の国際技術協力プロジェクトを考察した結果、中国外交官らは各国の企業や大学に目を付ける傾向があるとわかった。企業の中に、資金を必要とするスタートアップ企業が含まれている。

野心

中国当局は過去十数年間、技術開発に莫大な資金を投入してきた。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の調査では、中国の技術開発研究への支出は1991年の130億ドルから、2016年には4100億ドルと約30倍膨らんだ。これは米国に次ぐ規模だ。

CSISの研究員であるジェームズ・ルイス(James Lewis)氏は、中国産業が依然として西側の技術に依存している現状を挙げ、「この依存状態から脱却し、同時に技術分野で世界覇権を握ることが中国当局の目標だ」と示した。

いっぽう、フェダシク氏は、外国企業からの技術移転を狙う中国科学技術外交官の活動は「違法ではない」としながら、中国当局がハイテク分野でトップになる野心を実現するために、国家権力と外交資源を利用していることに強い懸念を示した。このため、中国企業と米国などの国際協力プロジェクトは「互恵的」ではないと同氏は指摘した。

米バイデン政権は3日、中国企業59社へ投資禁止令を出した。トランプ前政権に続き、中国当局による技術窃盗や強制技術移転などの不公平な慣行に対して積極的に対抗措置を講じている。

米上院は8日、中国当局との技術競争に備えて、国内ハイテク分野の生産・研究を強化するための包括的法案「米国イノベーション・競争法案」を可決した。

フェダシク氏はVOAに対して、中国当局が外国企業から重要な技術を取得するのを防ぐために、米政府はさらに、日本や英国を含む同盟国と協調する必要があると提言した。

(翻訳編集・張哲)

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