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【歌の手帳】夏山の

夏山の夕下風(ゆふしたかぜ)の涼しさに楢(なら)の木陰のたたま憂(う)きかな(山家集)

歌意「夏の山里の夕暮れ時。木の下を吹いてくる涼風の心地よさに、そこを立ち去り難い気がする楢の木陰であることよ」。

西行(1118~1190)の歌です。出家前の俗名は佐藤義清(のりきよ)。もとは北面の武士で、平清盛と同年代の人物です。22歳ぐらいで出家して西行法師と号するのですが、べつに宗教的決意があって仏門に入ったわけでもなく、ただ歌道に専心したいがためでした。平敦盛を討った熊谷直実のように、むごい戦さを厭うての出家ではなかったのです。

「夕下風」は、日常語ではなく、彼の文学を構築するための詩語でしょう。やはり西行は、歌の世界にのみ生きられる人でした。

(聡)

 

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