砂漠のオアシス Nithid / PIXTA(ピクスタ)
農科学もうひとつの道 完全自然農法

12 人口200億人まで養える~自然農法で砂漠を農地に

ここ数年、気候変動のニュースは多くの人が見聞きするようになった。そして、干ばつや洪水によって農作物に大きな被害が出ていることも、少しずつ伝えられている。その一方、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発のための2030年アジェンダ)は、2030年までに飢餓をなくす目標を立てている。先進国のフードロスをなくし、ロボットによる農作業、植物工場、あるいは遺伝子組み換え技術による動植物の細胞培養など、最先端技術を使うことを提言している。

これは、裏を返すと「いまの人口増加のペースを考えると、世界は食料不足による飢餓が広がり、いまの人口を支えることはできない」という危機的な状況を示している。しかし、提案された先端技術で、目標は本当に達成されるのだろうか。

日本の高度経済成長期と言われる1970年代には、すでに世界的な人口爆発と資源の枯渇への警告が多くの研究者から発せられていた。あれから半世紀の間、人口は増加し続けており、2030年に85億人、2050年には100億人に達すると予測されている。そこで、国連の舞台では、表向きには人権を尊重しつつ、「いかに人口を増やさないか」というテーマの議論も盛んに行なわれている。たとえば、「思春期を迎えた少女の意図しない妊娠を防ぐ」、「適齢期を迎えた女性の計画していない出産を防ぐ」などだ。これらの対策によって、少しでも人口増加を抑えようというのだ。

食糧危機は訪れるのか? sogane / PIXTA(ピクスタ)

ほかに、いま日本を含め先進国は少子化による人口減少が起き始めているので、人口問題はかなり複雑化している。それでも、世界全体の人口増加のペースと異常気象が続く食料生産の現状を考えると、やはりいつ食料危機に陥っても不思議はないという現状に変わりはない。

とはいえ、食糧問題については、筆者はきわめて楽観している。あくまで個人的な推論でしかないが、気候変動を前提としていても、200億人は食べていけると考えている。さらに温暖化であろうと、寒冷化であろうと、激しく変化する気象を将来的に安定化させる可能性すらある。ただし、自然農法による食料生産が普及すれば、という仮定の話だ。

200億人という数字は途方もない話に受け取られそうだが、根拠はある。それは、これまでの研究で、作物を栽培する資材や作業時間などのコストを、ざっと3分の1に減らすことができる、という実感に基づいている。具体的には、どんな作物も種を播いたり、苗を植えたりしたあと、ほぼ放置していて十分に育つ。農薬はもちろん肥料も使わず、従来の農作物よりも健康で栄養価の高い食べ物が得られるわけだ。それなら単純にいまと同じコストを投入すれば、77億人の3倍の人間を養う食料が調達できる計算になる。

ただし、これは個人の研究に過ぎないし、いきなり世界の食料生産の話に当てはめるのは乱暴なことは承知している。しかし、これまでの研究成果を当てはめて考えてみると、どのような気候、どのような土壌であっても、「植物と微生物の共生」は不変であり、それが4億年という陸上生命の歴史であることは間違いない。とすれば、たとえ砂漠であっても、「ある特定の環境」を整えれば、つまり、農作物の共生微生物が繁殖しやすい環境を整えれば、確実に農作物を栽培できるようになると考えている。

写真素材: View city of Tinghir city and oasis. Morocco /Elena Odareeva / PIXTA(ピクスタ)

2015年に特許を取得したころ、特許理論を当てはめて砂漠を緑化する計画と実験地の図面を制作したことがある。この計画を実行すれば、10年以内にかなり大きなオアシスができると予測していた。実験農場の形、拡大方法、育てる作物なども具体的に記述してある。現在はハル農法の再現性は十分であるとの実感はあり、世界中の砂漠の緑化(農地化)は可能だと考えている。もちろん、日本の農地と広大な砂漠では環境が違うと思うが、大事なことを忘れてはいけない。そもそも4億年前、地殻変動によって生まれた大陸は、砂漠よりも過酷な、生命の存在しない火山性の大地であったことを。荒涼とした大地は、植物と微生物の力によって豊かな森林に覆われた。

日本の畑の風景 Tony / PIXTA(ピクスタ)

残念なことに、自然農法は実践者も農地もいまだに少ない。しかし、ここにきて気候変動の影響が人々の意識に上り、いまの農業技術による環境破壊や農薬による健康被害の実態が明るみに出てくるのを見ると、大きな転機が訪れているとも考えられる。もし、多くの人が自然農法を望むようになれば、世界は一気に新しく生まれ変わる可能性はあるし、そう強く願っている。

(おわり)

執筆者:横内 猛



自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。

※寄稿文は執筆者の見解を示すものです。

※無断転載を固く禁じます。
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