中国の影響強まる東ティモールに…日本、国際空港ターミナル建設援助
10月1日、政府は東ティモール政府との間で、国際空港のターミナル建設のための無償資金協力に関する交換文書に署名した。中国共産党の影響力に対する懸念が高まる同国だが、専門家は、主要国は支援を通じて中国を遠のかせるべきだと指摘する。
空港拡張支援に関する書簡は、杵渕正巳駐東ティモール大使とジュリアオ・ダ・シルバ外務・協力担当副大臣兼暫定大臣の間で交わした。資金支援は49億100万円。
JICAの調達向け資料によると、同国最大の国際空港であるディリ空港(正式名プレジデンテ・ニコラウ・ロバト国際空港)は基本施設を国際民間航空機構(ICAO)の標準を満たしておらず、管制塔も老朽化し、高さ不足により滑走路の端を視認できないなど安全上の問題があるという。
日本支援の建設計画では、2階建ての旅客ターミナルビル(1万1653平方メートル)の拡張工事を行う。それに付随する発電所も建設される。
署名について、杵渕大使は「東ティモールの過去20年間は独立回復後の復興期だった。向こう20年間を新たな成長のステージとし、この空港計画を契機によりダイナミックな経済・社会の発展をもたらすことを期待する」と述べた。
世界で3番目に若く誕生した東ティモール(2002年独立)は、日本やEU、オーストラリアから支援を受けてきたが、近年では中国の投資が目立ってきた。もっとも、距離の近い主要国オーストラリアは、東ティモールが国の興りから、共産主義政権の足掛かりにならないよう、周辺のガス田開発策定、通信インフラ設備、巡視船提供の約束など積極的な支援を行なっている。
中国からの支援は近年増加している。オーストラリア国家安全保障カレッジ博士のアンドレア・ソリアーノ氏は、中国の東ティモールへの援助はオーストラリア、日本、EUなどの他の援助国に比べて少ないが、増加しているという。例えば、中国は同国外務・防衛省、国防軍司令部、大統領官邸などの重要な建物の建設資金を提供した。2008年には巡視船2隻を提供し、2019年には人民解放軍海軍が現地でトレーニングを行った。
中国による東ティモールに対する関心は3つある。東南アジア地域での影響力を拡大すること、台湾の国際空間を制限すること、そして国の天然資源へ接近できることだと、シンガポールの東南アジア研究所顧問イアン・ストーリー氏は指摘する。
中国はいくつかの大型インフラも建設している。2008年10月には重油発電所2基を建てた。ソリアーノ氏によれば、この計画は透明性の欠如、経済的効果のなさ、環境意識の低さなどが指摘され、東ティモールの指導者が中国の影響を受けたのではないかとささやかれたという。また、同国は中国共産党主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)や広域経済圏構想・一帯一路も支持している。
いっぽう、血生臭い紛争を経た東ティモールは民主主義体制への渇望があり、国の「自由」を評価される数少ない東南アジアの国でもある。2021年、国際人権NGOフリーダムハウスによる「世界自由度ランキング」では、東ティモールは東南アジア諸国で唯一「自由」と認定された。貧困層は人口の4割に上るものの、選挙の投票率は高く権力の分散も行われているという。
シンクタンク・外交問題評議会(CFR)によれば、地域レベルの選挙によって民主主義への国民の参加が促進され、長い独立闘争と、最近の市民社会や指導者の努力により、多くの東ティモール人は民主主義の重要性を確信していると分析している。
前出のソリアーノ氏は、いまのところ、東ティモールは中国の巨額融資を受けるような他のアジアや太平洋諸国ほど債務の影響を受けることはないが、発展には支援が必要であり、オーストラリアはその緩衝地帯を重視して、起こりうる危機を未然に防ぐことは重要だと提言している。
(佐渡道世)