2021年9月、ミャンマーのヤンゴンで現軍事政権を非難する僧侶たち(AP通信社)

軍事政権下のミャンマーに武器供給続ける中国とロシア 国際社会の支援努力を妨害

ミャンマー軍事クーデターから8ヵ月が経過した。複数の報道によるとミャンマーの崩壊危機に対する国際社会からの緊急警告を尻目に、中国とロシアが両国の主要兵器輸出先である現ミャンマー軍事政権への兵器供給を停止する様子が見られないことで、協力的な国際対応が良好に働く見通しは暗い。

2021年9月23日、国際連合人権高等弁務官事務所のミシェル・バチェレ(Michelle Bachelet)人権高等弁務官は声明を通して、「軍事政権反対派の弾圧を目的として現在も引き続き戦争兵器が町や都市に配備されている」とし、「根深い特権階級の軍事幹部の野心により、この数ヵ月間ミャンマーの安定および民主主義と繁栄への道が犠牲となった。同国に与えた影響は最悪で悲劇的である。各地域への影響も相当に深刻であると考えられる」と述べている。 

ミャンマー語で「Tatmadaw」と呼ばれるミャンマー軍に関与する個人や企業を制裁対象とした欧州連合(EU)、英国、米国などの民主主義諸国は、政治犯として投獄されている元政権の指導者等の釈放を含め、民主選挙で選出された政治家の即時復帰を要請している。一方でASEAN(東南アジア諸国連合)は事態解決の促進を目的として、加盟10ヵ国の1つであるミャンマーと他諸国の仲介役を務める特使を任命した。 

AP通信が9月下旬に報じたところでは、2月1日のクーデター以来、治安部隊により1,100人以上の住民が殺害されるなど人道危機が悪化の一途を辿っているにも関わらず、国連安全保障理事会(国連安保理)常任理事国として拒否権を持つ「中国とロシアがミャンマー軍を支持しているため国連がミャンマーの新軍事政権に有効な措置を講じることができる可能性は低い」。 

AP通信の報道では、6月に国連総会はミャンマー軍事政権への批判を表明して武器禁輸措置などを求める決議を採択したが、中国とロシアなどが棄権したため賛成票を投じたのは国連加盟国193ヵ国のうち119ヵ国となった。しかも同決議には法的拘束力はない。加盟国への拘束力を有するのは国連安保理決議のみで、国連総会決議の場合は勧告的効力に留まる。 

ストックホルム国際平和研究所によると、中国とロシアは最大級のミャンマー軍への兵器供給国であり、1999年から2018年のミャンマー軍事装備輸入量においては両国がそれぞれ44.2%と43%を占めている。しかし、中露の私欲の対象は儲かる兵器販売だけに留まらない。 

石油・天然ガスのパイプライン、水力発電ダム、軍装備品や消費者製品に使用される希土類(レアアース)採掘事業など、中国はミャンマーに大規模なインフラ投資を行っている。ロイター通信の報道では、2021年9月に両国当局がミャンマー港湾都市ヤンゴンと中国の国境地帯に当たる雲南省を結ぶ交易路開設事業計画を発表した。開通すれば中国はより容易にインド洋に抜けることができるようになる。

ミャンマーで政府転覆が発生した翌日、中国の圧力により国連安保理が発表した声明から軍事クーデターを非難する文言が削除されたが、中国がこうしたミャンマー事業に投資していることを考慮に入れれば、専門家等が指摘しているように中国の思惑がよく見える。

米国平和研究所が6月に発表した分析によると、中国の不干渉の基本政策が「ミャンマー軍による権力掌握に抗議する民間人に対する軍事政権指導者の暴力的な攻撃を増長させた」のである。 

英国を拠点とするミャンマー人活動家のマウン・ザルニ(Maung Zarni)博士は、2021年5月にニュースサイト「ポリティックス・トゥデイ(Politics Today)」に掲載された記事「An Axis of Evil: Why Russia and China Protect Myanmar’s Military Regime(仮訳:悪の枢軸:ロシアと中国がミャンマー軍事政権を擁護する理由」で、「しかし、ロシアが軍用装備品の供給や国連安保理での拒否権行使およびミャンマー軍士官を対象とした兵器工学、情報技術、他の軍事科学の研修・訓練の提供などを行っていることを考えれば、同国の支援も相当に重大な要素である」と述べている。 

ザルニ博士はまた、インド太平洋に同盟国がほとんど存在しないミャンマー軍をロシアが支援することで、「ミャンマーは東南アジアにおける戦略的足掛かりを確立することができる」と記している。

ロイター通信が伝えたところでは、ロシアは2021年8月下旬、航空機、巡航ミサイル、無人航空機(ドローン)を撃墜できる能力を備えるミサイル防衛システムのミャンマーへの納品予定を継続すると公表した。 観測筋によると、中露が人道的危機の解決を顧みない要因は影響力拡大への思惑と金銭的・地政学要素にあるが、現在岐路にあるミャンマーで軍事政権が維持されるほうが両国の利己主義にも都合の良い展開となる可能性が高い。 

政治アナリストのキン・ゾー・ウィン(Khin Zaw Win)博士はエーヤワディー・ニュースマガジン(The Irrawaddy)に対して、「現在、ミャンマー軍事政権は中国とロシアに頼るより他にない」とし、「ロシアは軍事政権を支援する主要国となっている。同政権を認識して支持するロシアは今後も兵器を販売し続けると考えられる…ロシアは中国から市場を奪うであろう。ロシア海軍もインド洋を利用したいのである」と述べている。  

(Indo-Pacific Defence Forum)

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